偽る脳力25 脳の調整の偽り

脳には実際に起こっていることを調整して、調整した結果を当たり前のように受け取る能力が備わっています。その例としてよくあげられるのは視覚と聴覚の一致です。目の前にいる人と会話しているときには、口の動きと耳から入ってくる言葉(音)が一致しているというのが当たり前の感覚です。

目に届いた視覚情報は眼球内の網膜から視神経、視交叉、視索を経て、視神経を通って大脳の後頭葉に伝わると、そこで画像として映し出されます。視交叉は左眼球と右眼球で捉えた情報が交差する下垂体の上側にある部分で、簡単に理解すると左眼球の情報は右脳に、右眼球の情報は左脳に伝わることになります。距離が長いので、見てから画像になるまでにかかるまでには約0.2秒かかっています。

これに対して、聴覚のほうは内耳の聴神経(蝸牛神経)から、すぐ近くの側頭葉に伝わって音として認識されます。これにかかる時間は0.1秒とされています。100m走ではスタートの号砲から0.1秒以内にスターティングブロックの圧力センサーが反応すると音を聞く前にスタートしたとしてフライングとなります。これは聴覚の速度に基づいて決められたことです。

目と耳に同時に届いたとしても、脳の中で反応するまでに0.1秒の差があります。この差を脳が調整して、同時に届いたように感じさせているということです。この視聴一致は、人間に備わったプラス面での「偽る脳力」と言えます。

ところが、この調整ができず、0.1秒の視聴の差がズレとして起こっている人がいます。私もその一人で、話をしている人の口の動きが遅れて見えます。腹話術のいっこく堂のような感じで、声が先に届いて、口の動きが後についてきます。

わずか0.1秒であっても、ピッチャーの手をボールが離れてからホームベース上に到達する0.5秒の5分の1の時間は認識ができる時間の範囲です。その原因は、私に限らず、今の医学では解明されていないことです。

微妙な時間差であっても、いっこく堂の腹話術をずっと見続けているような感じです。

「人の顔を見て話を聞く」というのは社会人の常識ではあるものの、それをすると視覚と聴覚のズレによる精神疲労が重なることからの、無意識のうちに目線を外しています。それを失礼な態度と感じる人がいて、そのために付き合いがうまくいかなかったこともあります。

このことはマイナスの「偽る脳力」になることかもしれませんが、これを自分の特徴として活かすことができればプラスの「偽る脳力」にできるはずです。この事実を周囲にも伝え、自分にも言い聞かせるようにしています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕