女子レスリングの国際チームの選手の体重と体脂肪の調整がメディカルダイエットのきっかけとなり、これが「偽る脳力」の始まりだったとの話を前に書きましたが、脳科学の研究に進むことになったのは、次に取りかかった子どもの食事の研究への参加でした。
2008年にメタボ健診(特定健康診査・特定保健指導)が始まったときに、保護者の生活習慣が子どもの肥満にも関係があるとして、小児肥満の研究が小児医療を対象とした国立病院でスタートしました。
成人の肥満への対応は、臨床栄養と運動科学を組み合わせたメディカルダイエットの指導どおりに実施してもらえれば、必ず効果が得られます。スポーツ選手の場合には、目的と目標がはっきりとしているだけに、理論どおりの結果が得られます。このときに理論どおりの実施してもらうために、事実を少し曲げて伝えるようなことは必要ありません。
ところが、成長期の子どもの場合は成長の妨げにあることは、いくら肥満解消の効果があっても実施することはできません。女子の場合は10歳を過ぎるとホルモン分泌の変化が生じるために、それも配慮した対応が必要になります。
子どもへの指導は直接伝えることばかりではなく、保護者に伝えて実施してもらうこと、近くで見守ってもらうことが多いことから、どのような伝え方をすればよいのかを考えることも重要となります。いつもの子どもへの接し方、伝え方の口調も聞き出し、命令口調で行動させることもあれば、普段とは違うアプローチをしてもらうこともあります。
そのときに間違った指導をする可能性があるのは、保護者が普段の伝え方を偽って、優しく接していることがあるからです。それを真に受けて、いつもより厳しく伝えるように指導して、子どもの反発を招いたり、拒否反応につながることにもなります。
子どもは肥満になりたくてなったわけではなく、気をつけていても(母親のような体型になりたくないといったように)、食生活によって“なりたい自分”とは異なる体型になってしまうことがあります。子どもの気持ちを配慮して注意深く指導をするだけでなく、子どもと保護者の関係性にも注意を払って、進めていく必要があります。
さらに子どもの肥満の指導を難しくさせているのは、発達障害の関係です。発達障害児は通常学級でも8.8%が該当しているとの文部科学省の調査結果があり、実際には10%に達していると考えられています。発達障害は自閉症スペクトラム障害、注意欠如・多動性障害といったコミュニケーションの困難さ、行動のコントロールの難しさがあり、日常的なことでも指導が難しいことがあります。
さらに発達障害では、食の困難さがあって、成長や肥満解消に有効な栄養素が摂れない場合もあって、これを克服して改善の指導をするためには、子どもの感情を刺激しないように指導する側の「偽る脳力」が重要になってくるのです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕