偽る脳力41 脳を偽る能力での回復

脳梗塞になると、さまざまな機能の低下が起こります。五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)のうち低下がわかりやすいのは視覚機能で、正常に見ることができなくなることから発症に気づくことができます。

中には視覚の変化が起こりにくく、言葉のもつれやバランス機能の乱れが発症のサインとなっていることもあるのですが、視覚は脳の情報機能の80%以上を占めていることから症状が出やすく、また改善のためにも視覚を活用することができます。

脳梗塞では左脳と右脳の、どちらに障害があったかによって症状が出る方向が違ってきます。視覚を得る視神経は右目の神経が左脳につながり、左目の神経が右脳につながっています。これは視交叉と呼ばれるもので、視覚神経は下垂体の上の位置で交叉して、後頭葉に大脳視覚野に映し出されます。

詳しく説明すると、右目と左目で見たもののうち右視野の映像は大脳視覚野の左側に映し出され、左右の目で見た左視野の映像は大脳視覚野の右側に映し出されます。この両方の画像を合成して目で見た通りの画像情報が脳に認識されるようになっています。視覚異常が現れるのが両目の右側なら左側の脳に、それとは逆に両目の左側なら右側の脳に障害があった証拠とされます。

このような脳の仕組みを利用して、見えていない側の反対側の脳を刺激して、視野を回復させる方法があります。それはプリズム眼鏡を用いて、障害を受けていない視野を担う網膜に対して、障害を受けている視野の画像を投影させるもので、これによって見える状態を作り出して脳の機能を回復させていく方法です。

ミラーセラピーという機能回復法もあります。これは交流があった大学教授が脳梗塞から麻痺して動きにくくなっている手の機能を回復させた方法で、実際の治療に立ち合わせてもらったことがあります。

右手が麻痺している場合は、麻痺していない左手の動きを鏡に映して、それを見て右手がしっかりと動いていることを脳に認識させようとするものです。錯覚を活用しているわけですが、左右の手が同じように動かせていることを認識することによって、徐々に回復させていくことが可能です。

この方法が通じにくい患者もいて、その多くは脳梗塞によって障害を受けた脳が回復するはずがないと初めから諦めている人です。脳の機能を理解して、回復させることができると信じて取り組んでいる人は、自分の脳への感覚を偽ることをできる能力があり、その能力の高さが実際の脳の機能を高めていくことの証拠の一つとされています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕