偽る脳力63 脳の唯一のエネルギー源はブドウ糖

全身に60兆個以上あるとされる細胞のエネルギー源は糖質(ブドウ糖)、脂質(脂肪酸)、たんぱく質(アミノ酸)で、それ以外のものはエネルギー源として使われることはありません。細胞の重量は1kgあたり1兆個とされているので、60兆個というのは体重が60kgの人の場合で、それよりも少ない人もいれば多い人もいます。

3種類のエネルギー源は“全身の細胞”と言われることが多いのですが、脳細胞だけはブドウ糖以外はエネルギー源にはなりません。脳細胞には余計なものを入れないように、毛細血管の壁に血液脳関門というバリア機能があります。ここを通過できるのはエネルギー源ではブドウ糖だけだからです。

極端な糖質制限によって脳細胞に運ばれるブドウ糖が不足すると、脳機能が低下することになります。脳細胞は860億個ほどあるとされていて、細胞の数ではわずかであっても全身で必要になるエネルギー量のうち20%以上を占めています。

その脳を正常に働かせるために1日に必要となるブドウ糖の量は120gとされていて、1時間あたり5gを欠けると機能の低下が起こるようになります。

ブドウ糖が不足しないようにするには糖質が含まれたご飯、パン、麺類などを欠かさないようにする必要があるわけですが、1日のうち、いつ摂ってもよいというわけにはいきません。脳の仕組みがわかると摂るべきタイミングがわかります。夕食を19時に食べて、翌日の朝食が7時だとすると12時間の空腹時間になります。

食事で摂ったブドウ糖が脳細胞の機能を低下させないように充足されているのは15時間ほどで、12時間の空腹時間なら何も問題はありません。ところが、朝食を抜くと昼食までの時間は17時間となり、2時間は不足した状態になります。

脳細胞はブドウ糖が不足したからといって急に機能が止まるようなことはありません。自動車がガソリン不足になるとエンジンの働きが低下して不完全燃焼のまま走ることができるのと同じように、脳の機能が低下したまま働き続けることができます。

脳の機能が低下すると集中力が低下して、仕事や学習に影響が出ることにもなりますが、問題はそれだけではありません。毎日2時間ずつ、全身の働きをコントロールする脳が正常に働かないのでは、健康状態を保つことができなくなります。

1日に3食を食べることには意味があり、中でも朝食と夕食を抜いてはいけないということですが、このような栄養学の基本中の基本が理解できていない人が極端な糖質制限を訴えることは偽りだと判断する目が必要になります。そのような見抜く能力は“健康リテラシー”と呼ばれています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕