偽る脳力83 閃輝暗点の状況

「偽る脳力」は子どものときからの体験が自然のうちに身につけさせた能力のように感じていますが、このことを意識して考えるようになったのは、閃輝暗点になったことがきっかけでした。

閃輝暗点という視界にモザイクが出る状態になったのは、目を使う執筆やテレビ関係、IT関係の仕事を集中的に取り組んでいる時期だったので、てっきり目の疾患だと思い、閃輝暗点が出たときには目を使わないようにしていました。

ところが、休んでいてもモザイクが出るということが続き、閃輝暗点が頻繁に起こるようになり、輝きの輪が見える状態からモザイクに変化したときに、付き合いのあった教授を訪ねて大学病院で診察を受けました。

初めに行ったのは教授が外来も担当する総合診療科で、見分けが難しい患者を振り分けることを専門にしている珍しい存在でした。以前は老年内科といって、疾患別ではなく高齢者を専門に診るところでしたが、総合診療科になって私も受診することができました。

そこから回されたのは眼科ではなく、循環器内科でした。閃輝暗点は網膜の画像を脳でキャッチする後頭葉の視覚野で正常な画像とならないことによって起こるもので、血流低下による酸素不足が原因でした。

緊張度が高まったときの血液循環の低下は教授が開発したエコー検査でわかり、その治療薬(マグロの油が材料のEPA製剤)も教授が開発に関わったもので、そのきっかけから東京にいる間は主治医になってもらっていました。

そのときには血流低下の理由は明らかではなかったのですが、心臓リハビリテーションの取材で知り合った心臓疾患の専門病院の副院長と知り合い、自分の状態について説明をしたところ、思いつくことがあるとのことで検査を受けました。

その結果は心臓弁膜症で、詳細としては僧帽弁閉鎖不全症であることが告げられました。
通常は心臓の弁の異常や老化のために弁の閉鎖が遅れて、拍動が起こったときに弁が完全に閉じられていないことから血液が心臓内で逆流していて、そのために心臓から勢いよく血液が流れないとのことです。

ところが、私の場合は心臓の弁の異常でも老化でもなく、心臓の動きをコントロールする電気信号を発する洞結節から心臓に続く刺激伝導系の一部がバイパスを通って、神経伝達が乱れているのが原因でした。

治療法もなく、血流がよくなる生活を心がけるという気休めのような指導があり、閃輝暗点に長く付き合っていくしかないという結果でした。

“他の人には見えないものが見える”という聞きようによっては怖い話に聞こえるようなことですが、そのことが気づかれなければ何事もなかったように過ごせるということで、よく見えなくなる時間があっても自分を偽り、周囲を偽ることを決めました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕