偽る脳力87 時間泥棒に気づいていない

時間が大事で、時間に限りがあるということを実感しているときに、最も気になるのは「時間泥棒」の存在です。この言葉は1976年に発行された児童文学の『モモ』で描かれたテーマで、少女のモモが灰色の男たちが人々から盗んだ時間を、時間を司るマイスターの助けによって取り戻すという物語です。

その当時はあまり話題にはならなかったのですが、その言葉が記憶に残るほど耳にしたのは、居酒屋業界の著名な経営者が都知事選挙に出馬した際に作戦参謀の一角として呼ばれたときです。その活動の中で「時間泥棒」は盛んに飛び交っていました。

その経営者は2005年に介護事業にも参画していて、私の叔父が日本社会事業大学の学長を務めていた関係もあって、介護施設施設の作戦参謀として呼ばれました。

同社は既存の介護事業を取得して参入したことから、社内に蓄積された経験がない状態でした。当時の私は臨床栄養の世界を基点にして、福祉関係の給食にも踏み込んでいたことから好適と思われたようです。

そのときの戦術が気に入られたようで、2011年の都知事選挙の活動支援にも呼ばれました。結果は現職に敗れての落選でしたが、その後も政治を通じての介護社会の実現などを目指して活動を続けていて、機会があるたびに会っていました。

その経営者は最終的には参議院議員になりましたが、議員になってからも「役に立つ話と言って時間を取らせた人のほとんどが時間泥棒」と口癖のように言っていました。

企業家が国会議員になると、いろいろと近づいてくる先輩や関係者が相次ぐのは普通にあることですが、時代の寵児でもあったことから特に「時間泥棒」の被害に遭いやすい人であったのは確かです。

同じ時間をかけた(かけさせられた)人であっても、これから先に価値がわかってくれて、時間を大切に使うことができる人との出会いなら、それは泥棒をされたことにはならないということも話していました。

その見極めは難しくて、よさそうな顔をして近づいてくる人には要注意で、「時間泥棒は自分が泥棒であることに気づいていない」ということも、よく言っていました。

ただでも時間がなくて忙しい人の時間を、わざわざ盗みにくるようなことはなくて、その企業家のためになることだと思って接触してくる人が多く、面談をセッティングするスタッフも役に立つ話だと思って動いています。

そのスタッフも時間泥棒に加担したことになり、結局は社外だけでなく社内にも時間泥棒がいて、そのことに本人は気づいていないので、時間泥棒の片棒を担ぐような人に給料を払っていると自嘲気味に話していたことを今でも覚えています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕