「卵はコレステロール値を高めるので1日1個まで」と言われた時期があります。それが途中で「何個食べても大丈夫」に変わりました。そして、今は条件付きで多く食べてもよいというように変わっています。
卵とコレステロールについては、人によって言うことがバラバラですが、どの段階で得た情報なのかによって違いが出ているようです。私たちの役割は最新情報を伝えることですが、ただ「昔の常識は今は非常識」と言うだけではなくて、どのように変わったのかを正確に伝えて、なぜ変わったのかを同時に伝えておかないと、さらに変わるようなことがあったときに対応できなくなってしまうからです。
私たちが摂取するべき栄養素の量については厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」に掲載されています。5年ごとに改定されていて、今使われているのは2020年版(2020年4月1日〜2025年3月31日)です。
2010年版ではコレステロールの1日の摂取目標量は成人男子が750mg未満、成人女性が600mg未満となっていました。鶏卵の卵黄に含まれるコレステロール量は1個あたり約250mgとなっています。それなら1日に2〜3個を食べても大丈夫ではないか、と思われがちですが、コレステロールは肉や魚介類にも多く含まれています。
血液中のコレステロールのうち、食品に由来するのは20%程度とされ、残りは肝臓で合成されています。コレステロールは細胞膜の材料で、ホルモンの原料、胆汁の材料ともなっていて、重要な成分であることから多くが肝臓で合成されているのです。戦前の日本人が短命だった(平均寿命が50歳に達していなかった)のはコレステロール不足であったことが指摘されています。
食事で摂るコレステロールの量が増えれば、肝臓が合成量を調整して、コレステロール値が上がりすぎないようにしています。血液中のコレステロールが増えすぎると動脈硬化の要因となります。
2015年版では、コレステロール摂取と動脈硬化の関連性が証明されていないとのことで、コレステロールの摂取基準(目標量)がなくなりました。このことから、以前の常識が変わって、卵は何個食べてもよいと言われるようになったのです。
ところが、2020年版では、人によって摂ってよいコレステロールの量が変わりました。脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症)の人は1日に200mg未満にすることが示されました。これ以下に抑えることで脂質異常症の悪化による動脈硬化を予防することができる、というのが理由です。
それなら血液検査を受けて指摘されなければ卵は何個でも食べてよいのかというと、「患者調査の概況」(2017年)によると日本人は男性が約64万人、女性が156万人と合計で成人人口の5人に1人が脂質異常症となっているので、「何個でも」というのは間違いといえます。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)