卵焼きの味の境界線1

子どものときには新潟県に住んでいて、父の転勤について県内の北から南まで移動しました。山形県に近い北側は東北弁に近い地域で、富山県に近い南側は関西弁(というよりは加賀弁)に近い感じでした。福島県、群馬県、長野県と接している地域には住んだことがないのですが、山が隔てているので、あまり影響はなかったように感じています。
JR北陸線の直江津と糸魚川の途中に直流と交流の切り替え地点があって、ここを通過するときには列車での電気が一瞬切れるということを経験して、ここから先は住むところが違うという感覚になったことがあります。以前は糸魚川は富山県の鉄道管区で、糸魚川に住んでいたときには富山県から父の転勤で来たという同窓生が複数いました。
新潟県と富山県の境には、新潟県側の海岸線には親不知(おやしらず)、子不知(こしらず)があり、江戸時代までは波が引いた短い間にだけ通過できる難所でした。そのために関西から富山県(越中)まで来た文化は新潟県(越後)まで入ることがなく、この県境が文化の境にもなっていました。
初めて富山県に行ったときに、富山は関西系の味付けだと聞いていたのに朝食の卵焼きの味は、いつも食べているものと同じでした。新潟県の味は砂糖に醤油で、富山県でも同じ味でした。富山県は江戸時代の北前船の寄港地で、昆布の消費量が多くなっていました。今でこそ昆布消費のランキングは山地の北海道に近い東北が上位で、それに富山県が次いでいますが、以前は1位が沖縄県、2位が富山県でした。
富山県のあと、石川県の金沢まで足を伸ばして、そこで食べた卵焼きは塩に出汁(だし)でした。そのときの発見は子ども心に残り、大学で東京に出てから地方出身者に会うたびに卵焼きの味に聞いていました。仕事や観光などで全道府県に行きましたが、必ず卵焼きを食べるようにして、味の違いを記録していきました。「秘密のケンミンSHOW」がやるようなことをコツコツと調べてきたわけです。
大きく分類すれば、関東は砂糖と醤油の味付け、関西は塩と出汁の味付けとなりますが、他の分類(カレーライスの肉が豚か牛かなど)とは違って、はっきりと線引きができないのが卵焼きの分類の面白いところです。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)