厚生労働省の「健康日本21」では、歯・口腔の健康について目標を定めて健康づくりを推進しています。その考えの基本について紹介します。
う蝕(むし歯)と歯周病に代表される歯科疾患は、その発病、進行によって欠損や障害が蓄積し、その結果として歯の喪失につながるため、食生活や社会生活などに支障をきたし、ひいては全身の健康に影響を与えるものとされています。
また、歯と口腔の健康を保つことは、単に食物を咀嚼するという点からだけでなく、食事や会話を楽しむなど、豊かな人生を送るための基礎となるものです。
これらの口腔と全身の健康の関係を実証的データとしても明らかにしていくため、平成8年(1996年)より厚生科学研究「口腔保健と全身的な健康状態の関係に関する研究」が実施されてきました。
80歳高齢者を対象とした統計分析などから、歯の喪失は少なく、よく噛めている者は生活の質、活動能力が高く、運動・視聴覚機能に優れていることが明らかになっています。
また、要介護者における調査においても、口腔衛生状態の改善や、咀嚼能力の改善を図ることが、誤嚥性肺炎の減少や、ADL(日常生活動作)の改善に有効であることが示されています。
従来の歯科保健対策は、小児期におけるう蝕予防対策を中心として実施されてきていて、その結果、乳歯のう蝕は明らかに減少して軽症化の傾向を示しています。永久歯の1人平均う歯(むし歯)数も、20歳頃まで減少傾向が認められるなど着実に成果が上がってきているといえます。
しかし、13歳でう蝕有病者率が90%を超え、55〜64歳で歯周病の有病者率が8.25%となるなど、依然として歯科疾患の有病状況はう蝕、歯周病ともに他の疾患に類を見ないほど高率を示しています。
また、咀嚼能力に直接的な影響を与える歯の喪失状況についても、60歳代ではんぶん(14歯)の歯を失い、80歳代では約半数の人がすべての歯を喪失しているなど、国民の保健上から依然として大きな課題となっています。
〔健康ジャーナリスト/日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕