学習支援11 学習障害の特性①識字障害8

文字を見るときには眼球を動かさずに直視するだけでは認識できる範囲が限られます。限られた範囲しか見ることができないと全体を把握しにくくなります。狭い範囲を見て覚え、それに続く文章は再び狭い範囲で見るということを繰り返していたら、なかなか全体を把握することは難しくなります。
これは現在のパソコンの文章ソフトの表示範囲と、初期のワードプロセッサーの表示範囲との比較で考えることができます。初期のワードプロセッサーの表示範囲は文章の1行から数行だけを表示できるものでした。中には20文字しか表示できないという機種もありました。これでは一つの文章の流れも見ることができず、全体像の把握ができないために、何度も見返すという作業が必要でした。
眼球を大きく動かして全体を把握することができるのを前提として、教科書も教材も作られています。眼球を動かす範囲が限られていると、全体として書かれていることがわかりにくく、そのために何が書かれているのか、試験問題では何を問われているのかがわかりにくくなります。そのために識字障害が起こる、識字障害の状態がよくないということにもつながります。
発達障害では眼球運動が正常に行われないことは以前から知られていました。大阪大学では眼球運動のわずかな異常から脳の機能障害を早期に診断・評価する手法を開発していて、発達障害の一つの注意欠陥・多動性障害の子どもは、目の早い動きを制御する脳機能に異常があることを発見しました。外見的には判断しにくい注意欠陥・多動性障害を早期に発見することで改善のための適切なケアを実施することに活かしています。
眼球を素早く動かすことができない、もしくは素早く動かすと視界に入ってきた情報を的確に判断することができないということがあると、あまり眼球を動かさずに書かれた文字を読もうとします。そのために頭を左右に動かして読もうとするようになります。頭を左右に語化して読むと、視界が狭くなり、文章を全体的に把握しにくくなります。このことが学習障害の識字障害として現れ、識字障害の状態を悪くさせることにもなります。
眼球運動を正常化させるためにはビジョントレーニングが実施されますが、スポーツの視覚機能を向上させるような広範囲の文字や数字、記号などを読む能力を求める必要はありません。学習では手が届く範囲の文字などが読めればよいので、机に座ったままでの視野トレーニングだけでも学習への効果が得られるようになります。