学習障害163 聴覚過敏による運動の困難さ

学習障害の一つの体育の障害について、感覚過敏の視覚過敏について紹介してきましたが、五感の過敏のうち運動に関わりがないのは味覚だけで、視覚、聴覚、嗅覚、触覚の過敏は、運動に大きな影響を与えます。感覚過敏の状態は本人だけのもので、周囲からはわからないものだけに、その困難さは理解しにくく、それが発達障害児を苦しめることにもつながっています。本人はわざと下手にやったり、ルールと異なることをやっているわけではないのですが、そこを理解して、身体を積極的に動かす機会やモチベーションを失わせるようなことをしないように注意しなければなりません。
聴覚過敏は耳から入ってきた音が全部、脳に届いたまま反応してしまいます。通常の聴覚は脳まで届いた音の中から必要なものを選択して増強させ、逆に必要のないものは弱化させて、場合によっては聞こえないという状態にします。そのために教室での授業も周囲の子どもや教師もうるさいとは感じない程度のことが、うるさくて仕方がない、勉強に集中できないということも当たり前のように起こっています。
ここさえクリアできていない聴覚過敏の子どもにとって、もっと厳しい逃げ出したくなるような状態にもなりかねません。
体育の授業で身体を動かすことは、教室での学習のように集中することはないので平気だろうと思われているところがありますが、普通に準備運動をするだけなら周囲の音がうるさく感じても、号令をかける人の声を聞き分けることはできます。ところが、競技となると周りの音のために集中ができず、跳び箱を跳ぶタイミングを教えるために声をかけてもらっても、うまく反応できないことにもなります。球技では、ボールなどの音を聞き、周囲の声を聞いて集中して行うものだけに、音の選別ができないのは大変なことです。
個人競技の徒競走なら大丈夫かというと、スタートのタイミングを知らせるホイッスルや競技大会でのスターターピストルが大きく聞こえすぎて、中には「自分に向けて大砲を撃たれた感じ」に聞こえて、身体がうまく反応できないために合わせてスタートできない、それどころが走ることを拒否してしまうということも起こっているのです。