常に間違いからスタートしていると考えて進む栄養学

生活習慣病対策の栄養学は、臨床栄養研究が進んだ結果、ほぼメカニズムは解明されていて、どのような対応をすれば予防・改善ができるかも明らかにされています。糖尿病でいえば、血液中のブドウ糖の量を示す血糖値が高いということはブドウ糖が含まれる糖質の摂りすぎが原因となることから、糖質を減らすことが食事療法の基本とされています。ところが、終戦直後は一時期かもしれませんが、逆のことが食事療法として指示されていたことがあります。日本メディカルダイエット支援機構の理事長が師事した管理栄養士の先生から、「国立病院に配属されたときに、医師から糖尿病患者には糖質を増やすことを指示された」と聞いて驚きました。
糖尿病は体内で余分になったブドウ糖が尿に混じって排泄されることから、その分を補うために食事で摂るブドウ糖を増やすように指示されたということで、そんなことをしたら糖尿病を悪化させることになります。そのときの教訓から、「今の常識は非常識かもしれない」と考えるようにして、そのことを広く伝えるようにしたということを聞きました。
この話を臨床栄養研究のトップの医師に話したときに、自分も同じ経験をした、と話してくれました。それは「国立大学病院に配属されたときに、腎臓病の患者に食事のたんぱく質を増やすように言われた」ということで、これも今の常識では逆のことがされていました。腎臓病では尿中にタンパク質が多く含まれます。だから、出て行く分のタンパク質を、食事のたんぱく質で補うといことです。ここでは食品に含まれるものをたんぱく質、体内に入ってからのものをタンパク質と使い分けています。
糖尿病は糖質の摂取を減らすことが重要ということで、極端に減らさせるような糖質制限が医師によって指示されることがありますが、日本人は糖質だけで血糖値が上昇するわけではありません。日本人は脂肪の摂取が不足していたことから、脂肪を多く摂っても血糖値が上昇します。血糖値が上昇すると膵臓から分泌されるインスリンには、細胞にブドウ糖を取り込ませると同時に、肝臓で脂肪を合成させる働きもあります。脂肪を多く摂ってきた民族はインスリンの分泌量が多い体質ですが、日本人は脂肪を多く摂ってこなかったために、もともとインスリンの分泌量が少なく、脂肪を多く摂ることでインスリンが多く必要になり、膵臓に大きな負担がかかることで、血糖値が上昇したときに膵臓を傷めるようなことにもなりました。
このように栄養学の常識は時代とともに変化していて、さらに変化していく可能性があることから、常に常識を疑って取り組むことが必要と考えられているのです。