筋肉には赤筋と白筋があります。赤筋が、その名のとおり赤い色をしていて、酸素を多く取り込んで多くのエネルギーを作り出して大きな力を持続的に発揮することができる筋肉です。スピードからいうと遅めで、一瞬のうちに身体を動かずことができる筋肉ではありません。大きな力を長く発揮できなくても瞬時に動くことができるのは白筋で、これも名のとおり白い色をしています。
魚の場合には赤身魚のマグロやカツオなどは赤筋がほとんどです。白身魚のタイやヒラメなどは白筋がほとんどです。マグロは海中の酸素を取り込みながら長距離を泳ぎ続けます。スピードに乗ってからは勢いがついているので猛スピードに見えるものの、泳ぎ出しは実にゆっくりです。それに対してタイは普段は動きが少なくても敵に襲われそうになったときなどには急に動くことができます。
この違いは有酸素運動と無酸素運動の関係と同じで、赤筋は酸素を用いて大きなエネルギーを作る有酸素運動用の筋肉であり、白筋は大きなエネルギーは作れないものの瞬間的に動くための無酸素運動用の筋肉であるといえます。魚の場合には筋肉(身)の色がはっきりと別れています。タイが長く泳ごうと頑張ったからといって赤身が増えていくわけではありません。
男女で比較すると、男性は白筋が多く、運動によっても白筋が増えやすくなっています。女性は白筋が増えにくい分だけ赤筋が増えやすくなっています。年齢を重ねると強い力を発揮する白筋が減りやすいので、男性の高齢者は白筋が大きく減ることによって、だんだんと早く歩けなくなっていきます。同じ年齢の男女が参加する運動教室では、高齢者といっても60歳代、70歳代前半くらいまでは男性は早く歩くことができても、75歳を過ぎると早く歩けなくなる傾向があります。女性は70歳代前半までは男性よりも早くは歩けなかったのが、75歳を過ぎると衰えが少なくて男性の低下のほうが大きかったことから女性のほうが優位になっていく傾向があります。
この75歳というのが分岐点のようで、75歳前の男性は白筋が多く、早く動けた白身魚のタイのような感じだったのに、75歳を過ぎると早く動けないものの長持ちしやすい赤身魚のマグロのような感じになります。これに対して、75歳前の女性は赤筋のほうが多いマグロのような感じだったのに、75歳を過ぎるとタイのような感じになります。これは白筋が優位になるというよりも赤筋の衰えが激しい結果といえます。これは個人差も大きいのですが、同じ年齢でも女性の高齢者はチョコマカと身体を動かすことができるものの、体力が長続きせずにタイのようになり、男性の高齢者は早くは動けなくても長持ちはするというマグロのようになっていきます。
そもそも女性は男性の3分の2の筋肉量という平均値ですが、高齢の女性は赤筋の持久力が低下して、疲労物質の蓄積が多くなって、そのために体力が続かず、急に体力切れで歩けなくなります。それまでしっかりと歩いていたようなのに、急にガクンと持久力が落ちて転ぶようなことになります。高齢の男性は疲労物質が蓄積してきても、筋肉が多い分だけ分散させて急に持久力が落ちて転んでしまうようなことは比較的少なくなっています。
過去の運動経験や筋肉量の差によって違いがあり、中には逆になっている人もいますが、こういったことが高齢者の場合には起こるということを意識して、歩き方を変える、長めに歩くときには休みを入れる、無理をしないで出歩かないということがあってしかるべきだと考えています。