忘れる脳力26 「初心忘るべからず」の真意

「初心忘るべからず」という言葉は、上司が部下に、目上の者が目下の者に話す言葉と思っていたのですが、最近では下の立場の人が上の立場の人に向かって口にすることも見られるようになってきました。

それは本来の意味の使われ方ではなくて、誤った使われ方で、その例として記録に残しておきたいような内容です。

「初心忘るべからず」は、能楽の大家の世阿弥が残した言葉で、初心は新しい事態に直面したときの対処方法、試練を乗り越えていく考えを意味しています。対処した経験を忘れてはいけないという意味であり、いかに経験を活かすべきかということを示しています。

こういったことは常識と考えたいところではあるのですが、若者の中には「初心の勢いが年齢を重ねると失われてくるので、勢いがあった時期を忘れてはいけない」という意味で捉えている人もいます。

そう思っているから、“初心を忘れた”上司に愚痴や苦言を言うことにもなるのですが、「初心忘るべからず」は能楽では若年のころに学んだ芸や、その当時の未熟だったこと、時期での初めての経験を忘れてはいけないという教えの言葉です。

中には上司であっても、意味をはき違えていることもあって、ある自治体の長が「物事に慣れてくると慢心しがちであるので、始めた時の新鮮で謙虚な気持ちを忘れてはならない」という意味で訓示していました。

始めたころの謙虚な張り詰めた気持ちを常に失ってはならないというところまでは合っていたとしても、その先にある最初に思い立った一念を忘れてはいけないという意味が抜けているようです。

この「初心」について、これから「忘れる脳力」のテーマに沿って書き進めていくこととします。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕