忘れる脳力27 是非の初心

一般に「初心忘るべからず」の意味として使われているのは、室町時代の能楽の大家の世阿弥が記した能の秘伝書『花鏡』に残した言葉のうちの「是非とも初心忘るべからず」の意味するところです。

是非は舞が良くても悪くてもという意味で、初心者のもつ緊張感とひたむきさには人を引き込む力があり、勢いと緊張感は忘れてはならないということを示しています。
未熟だったときに励んだこと、困難に向き合ったときに乗り越えてきた新鮮で謙虚な気持ちを忘れてはならないということです。

『花鏡』には、「是非とも初心忘るべからず」に続いて、「時々の初心忘るべからず、老後の初心忘るべからず」と書かれています。

是非の初心は重要なことではあっても、それだけでは充分ではなくて、時々の初心も老後の初心も忘れてはいけないということは3つの言葉を並べてみるとわかることです。

「時々の初心忘るべからず」と「老後の初心忘るべからず」については次回以降に例を挙げて紹介していきますが、それを踏まえて「是非とも初心忘るべからず」を読み直してみると、ただ初心を忘れないようにすればよいということではありません。

「常に新人の気持ちでいること」を重視して、それを営業の心得などに掲げている経営者もいます。時代は常に変化していて、今のように急激な変化があり、それに的確に対応していかなければ生き残れないような状況です。

昔のことを思い出して、それを繰り返していればよいということではなく、成功例をなぞっているとしても時代に即したアレンジが必要になります。平成の時代に「昭和の時代の成功談を語られても」という声を聞くことがありましたが、平成の30年を経た令和の時代に「昭和の時代の成功談を語られても」と言いたくなるようなことは多々あります。

そのようなことに言われないように、今の時代の「初心忘るべからず」を考えていくべきだと認識しています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕