ナショナリズムというのは、民族や国家に対する個人の世俗的忠誠心とする感情やイデオロギー(人間の行動を左右する根本的な物の考え方)を指しています。食料に関するナショナリズムが「食料ナショナリズム」で、このことが言われるようになったのは、新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけでした。食料ナショナリズムは食料の他国への流出を抑え、自国を最優先にする姿勢のことを指しています。新型コロナウイルスの感染拡大が、きっかけではありましたが、その背景にはアフリカから始まったサバクトビバッタの大量発生があります。
このバッタは、東アフリカのケニア、エチオピア、ソマリアなどで1月から発生して農作物を食い荒らしています。バッタは農産物を食べ食べ尽くすと次の農産物を求めて遠くまで移動していきます。1日に150kmもの距離を移動してしまい、アフリカでは1日で3万5000人分の食料を食べています。150kmというと、東京から東海道線で静岡の富士駅、北陸新幹線で軽井沢駅の距離に相当します。3万5000人分もの食料が食べられてしまうと、食糧危機が心配されるのですが、国連のローコック事務次長はケニア、エチオピア、ソマリアで1300万人が深刻な食糧危機に直面していると発表しています。
当初はアフリカだけで止まることも期待されていたのですが、サバクトビバッタの大群はアラビア半島からインド、パキスタンにも到達しています。この状態が続くと、世界の食料品の輸出国になっている中国もサバクトビバッタの被害を受けることが想定されています。1月にはWFP(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が「食料品の入手可能性への懸念から輸出規制にうねりが生まれている。国際市場で食料品不足が起きかねない」と警告しています。
新型コロナウイルスの感染拡大では、マスクや防護ガウンなどを他国に出さないとアメリが言い出したことが報道されていましたが、海外から食品を輸入して、自国の食品は輸出しないという食品囲い込み政策で、食料品の奪い合いが激化することになります。13億人以上の中国国民を食べさせるために何でもするという姿勢はわからないでもありません。ひょっとするとサバクトビバッタがシルクロードの砂漠を飛び越えて中国も被害を受けることを考えると、食料ナショナリズムに走ってしまうことは、ある程度は理解します。
150kmを飛び越えるくらいでは日本まで来ないとしても、中国からの食糧輸入が多い日本は、もしものときには大きな影響を受けることは想像に難くありません。