新型コロナウイルスの抗体には悪玉もある

ウイルスに感染すると、免疫細胞のマクロファージが取り込んで、これを処理すると当時に、どんなウイルスを処理したのかということを情報伝達物質のサイトカインを放出してリンパ球のB細胞に伝えます。この情報を受けてB細胞はウイルスと戦う抗体を作り出します。これによってウイルス感染に対抗できるようになる、と一般には説明されています。しかし、この通りにいかない場合も多々あります。
その代表的なものがエイズウイルスで、感染すると必ず抗体ができるものの、その抗体にはウイルスを退治する能力がありません。そのためにワクチンを接種して、抗体を作り出させても、治療効果がなくて、今に到るまでもワクチンが開発されていません。
このようなことが起こるのは、抗体には種類があるからです。どのような抗体かというと善玉抗体、悪玉抗体、そして役なし抗体の3種類で、エイズに対してはB細胞が役なし抗体を作っています。役なし抗体というのは、その名のとおりで抗体の役をしない抗体で、つまり役立たずの抗体です。
新型コロナウイルスに感染したときにB細胞が作っている抗体は善玉抗体で、医学用語では中和抗体と呼ばれています。この善玉抗体が作られれば、ワクチンを接種することによって善玉抗体が増えて、新型コロナウイルスに感染したときにも発症することがないか、発症したとしても軽症で済むようになります。
この話を聞くと、早くワクチンが開発されて、自分も早く接種したいと考えたくなるところですが、新型コロナウイルスには、もう一つの悪玉抗体が同時に作られてしまうという大きな問題点があります。悪玉抗体にはサイトカインの中でも炎症性サイトカインという重症化させる働きがある怖いサイトカインを放出する働きがあることが確認されています。
新型コロナウイルスに感染して軽症で済む人と重症化する人とがいるのは、善玉抗体と悪玉抗体が作られて、人によって作り出される量が違っているのではないか、と考えられています。ということは、新型コロナウイルスに由来するワクチンが開発されたときに、善玉抗体と悪玉抗体のどちらを多く作るのか、悪玉抗体の場合には、どれほどの重症が起こるのか、そこがわかっていないと、安心して使うことができないということです。