日々修行104 ウォーキングによる脳力の維持

ウォーキングの効果は身体機能だけでなくて、脳機能についても注目されています。

有酸素運動のウォーキングによって全身の血流が促進され、脳の血流が高まることから認知機能の向上に寄与することが知られています。

アルツハイマー病発症に対する危険因子で最も影響度が高いのは「身体的不活動」、いわゆる運動不足で、うつや喫煙、高血圧、肥満を大きく上回っています。

厚生労働省の『介護予防マニュアル』では、ウォーキングは運動器の機能向上の項目ではなくて、認知機能低下予防の項目に採用されています。認知機能低下防止・支援マニュアルとして一次予防、二次予防ともにウォーキングを推奨しています。

また、国立長寿医療研究センターの『認知症予防マニュアル』では、運動による認知症予防を中心として、有酸素運動によるウォーキングをプログラム化してすすめています。

さらに、日本神経学会から『認知症疾患治療ガイドライン』が発表されていますが、認知症の予防効果があることとしてウォーキング、サイクリング、階段の上り下りなどの有酸素運動があげられています。

その理由としてあげられることが多いのは、運動をすることによる生理活性物質の増加です。運動をすることによって増える生理活性物質としては、ホルモン(副腎皮質刺激ホルモン、成長ホルモン、テストステロン、エンドルフィン)、神経伝達物質(アセチルコリン、ドーパミン、トリプトファン)、神経栄養因子(BDNF)、酵素(AMPキナーゼ、KAT)、生理活性物質(t−PA)、血管新生因子(VEGF)が知られています。

これらの物質は運動時には安静時の1.2〜1.5倍も増えていて、脳内でも同様に増えていると考えられています。

アセチルコリンには脳で記憶を司る海馬の神経細胞新生促進があり、神経細胞が増えることによって記憶力を改善させる作用があります。神経栄養因子のBDNFにも同様の作用が認められています。

ドーパミンは意欲や活力を向上させる脳内ホルモンで、アミノ酸のトリプトファンには神経伝達物質のセロトニンを増やす作用がありますが、セロトニンは抗うつ作用があることから抑うつ状態を改善させる作用があります。

有酸素運動をするとアルツハイマー型認知症を引き起こすタンパク質であるアミロイドβが減ることが確認されています。この変化は、有酸素運動によって血管を新たに作る血管新生因子が脳内で増加して、血流が盛んになることによって起こると考えられています。

AMPキナーゼには細胞にあるインスリン受容体の感受性を高める作用があり、全身の細胞に存在しているものの特に筋肉から多く分泌されています。有酸素運動をするとエネルギー源としてのブドウ糖の消費が増えることがあげられますが、それに加えてAMPキナーゼもあり、より血糖値が下がりやすくなるわけです。AMPキナーゼは有酸素運動を始めてすぐに増え始めるので、短い時間の有酸素運動でも効果があります。

これに対してt−PAは30分ほどの運動をすると分泌量が増えます。t−PAには血栓を溶かす作用があり、血栓は脳血管を詰まらせて脳血管疾患(脳梗塞、一過性脳虚血発作)の原因となることから、認知機能の維持には重要な因子となります。

こういったことを示して、高齢者のみならず55歳以上の高年齢者(労働安全衛生法による分類)にもウォーキングの大切さを紹介しています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕