離職率が高い業界の一つにIT業界があげられています。離職率が高い業界というと、以前は3K(きつい、危険、汚い)の職場が代表的で、他の会社に就職するときに「同じ業界だけは行きたくない」と言われることがよくありました。
それに比べるとIT業界はKがあっても1つ(きつい)くらいだと言われてきました。それでも離職率が高いのは、同じ業界の他社に行こうとする人が多く、新天地で能力が高まり、もっとやりたいことが出てくることを期待して次の行き先を探すことになります。
これは離職というよりも“離社”と呼んだほうがよいかもしれません。やり続けようとする仕事の種類(職)は同じで、それを活かす場所が次々に変わっていくだけです。一つの会社の中でステップアップすることができるうちは在籍し続けるけれど、その余地がなくなると余地がある会社に移っていくということです。
“できる人材”ほど離れていくこともあって、離れられる会社にとっては困ったことなのかというと、そうでもないというのが、私が関わってきたIT業界の経営陣の考え方です。
「今の会社の中では能力を高め切ることができなかった人材が、外でもっと高めて、また戻ってきてくれる」という考えですが、その通りになるのは極めて少ないことです。それでも1人だけでも戻ってきてくれたら、その人に引っ張られて会社ごと伸びていくことができるという期待感があるわけです。
この人材の流動は、戻ってきてもらうということだけではなくて、次に飛び出た人材が、先に飛び出た人材と別のところで巡り合って、さらに新たなことを成し遂げるということもあって、“離社は喜んで送り出す”というのは常識化しています。
会社を離れるのは経営陣も同じことで、新たな仕事を始めるときに離れていった人に優先的に声をかけるのは当たり前で、その人が新たに作った人脈も大事な財産です。そういった財産を作り上げていくために、次々と人と会っていくのは、経営と同じくらい(場合によっては経営以上)に大事だということを教えてくれたのは、そういった経営陣でした。
今のように、どんな業界も人材不足で、大流動が起こっている時代には、従来どおりの離職率を下げる努力よりも、戻ってきて一緒に活躍してくれる人が選択しやすい環境を作ることが重要ではないかと考えているのは私だけではありません。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕