日々修行115 視聴不一致の困難さ

一過性脳虚血発作については前回(日々修行114)、自分に起こった不幸(?)として書きましたが、その後遺症として自分の身に起こったのは「視聴不一致」という専門医でも首を傾げるどころか、“匙を投げる”しかないことでした。

そのため、閃輝暗点のことは、ある程度は理解してくれて、自分の目で見ることができない症状であっても“嘘つき呼ばわり”されることはなくなったものの、視聴不一致のことになると理解不可能という人ばかりです。嘘つき呼ばわりで終わらず、精神科を紹介してくれた医師もいました。

視聴不一致は、どんな状態なのかというと、その名の通りで、視覚と聴覚が一致しないことです。視覚と聴覚とは、普通は一致しているという感覚があります。一致している感覚というよりも、一致しているのが当たり前という人がほとんどです。

目で見たものと耳で聞こえるものは同時に届いていると思われがちですが、神経伝達のメカニズムを知ると一致している方がおかしいことに気づきます。

音と光は速度が違うので、目で見えてから遅れて音が聞こえるというのが普通のことかもしれません。遠くで発生した雷は目で見えてから、数秒ほど遅れて音が聞こえます。その差で、雷までの距離を知ることができます。

ところが、目の前のこととなると、耳に入ってきた情報(声や音)が先に脳の届き、目から入ってきた情報(話している人の口の動きなど)は遅れて届きます。耳から脳に届くまでは0.3秒、目から脳に届くまでは0.5秒とされていて、その差は0.2秒となっています。

0.2秒の差があっても、脳が勝手に調整するので口の動きと声が同時に聞こえるわけですが、その調整ができないのが視聴不一致です。声が聞こえてから口が動くという、いっこく堂の腹話術のような状態に見えています。

演芸であれば短時間のことなので、視聴不一致を楽しんで体験することができます。それが、いつも起こっていることだと、わずか0.2秒の差であっても気持ちが悪いものです。その気持ちの悪い状態を、ずっと感じてしまうのが視聴不一致であり、私が体験し続けていることです。

視聴不一致は医学的には1万人に1人の発生とされているので、日本には1万2000人はいてもおかしくはないのですが、気づいていない人も多く、視聴不一致で困難さを感じている人となると極めて少ない状況です。

先天的に視聴不一致がある人は、自然のうちに調整能力が働いて、徐々に視聴一致に近づいてくることもあるようですが、私の場合は後天的に起こったので、そのギャップに気づくことができました。

それが気になるときには、口の動きを見ないようにしています。マスク着用が続いた3年間は、苦しい期間でしたが、私にとっては口の動きを見なくてもよくて、声だけに集中できたので、とても楽な時期ではありました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕