日々修行165 酒が酒を飲む

酒呑みの生態を表現するときに「酒が酒を飲む」という言葉が使われることがあります。これは酒呑みが理性を失って大酒を飲む状態を指していて、酒の酔いが回ってくるに従って、ますます大酒を飲むようになります。

酒を飲んでいるときには、飲みすぎてはいけないという理性のブレーキがかかっているのですが(中には初めからブレーキが効かない人もいるものの)、そのブレーキを踏むタイミングを酔いによって逃してしまい、限界まで飲み続けるということにもなります。

酒の酔いというのは脳神経を麻痺させることで、それが一部の麻痺であれば支障なく過ごすことができます。初めに酔うのは大脳の新皮質で、これは理性を司っている部分です。ここが酔うことで余計なストレスが弱められて、リラックスができるようになります。

この状態になるのは、いわゆる“ほろ酔い”状態で、日本酒換算では1〜2合くらいとされています。これを超えると新皮質の奥の旧皮質が酔うようになります。旧皮質は本能を司っていて、ここが酔った状態が理性を失うという段階です。日本酒換算では3合ほどの量となります。

そして、さらに酔いが進むと今度は脳幹が麻痺するようになる酩酊状態となります。日本酒換算では4〜6合くらいの量です。

脳幹は脳の中央の中枢神経系を構成する部分で、生存のために欠かせない自律神経の働きを制御している重要なところであり、睡眠・覚醒レベルの調整、姿勢・運動制御も行っています。“鯨飲”をして足元が乱れる状態といえます。

これを超えたのが泥酔状態で、言語がめちゃめちゃになる、意識がはっきりしない、まともに立てないといった命の危険が近づいて行きます。

こういった変化は「人が酒を飲む」「酒が酒を飲む」と呼ばれ、最後は「酒が人を飲む」という困った状態になります。この変化を利用して、自分にとって良い結果につなげようとする人もいます。

酩酊状態になると、さすがに交渉も何もあったものではなくて、「酔っていて何も覚えていないうちに契約書に印鑑を押してしまった」「勝手に捺印されても、覚えていないので反論できない」というようなことにもなりかねません。

これは法律上では、酩酊状態になったことを証明できれば契約は無効とすることもできるのですが、それができなくて大失敗した人の例も随分と見聞きしてきました。

そんなことにならないように、私は交渉の場と取られるような飲み会ではビール以外は飲みません。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕