日々修行220 よい匂いだけを嗅ぎたい

五感のうち味覚、聴覚、視覚、触覚は、これまでに経験してきたことが感覚に影響を与えるのですが、嗅覚だけは経験はほとんど影響を与えることはありません。

嗅覚以外の四感は、慣れることがあって、初めのうちは刺激的に感じるものであっても、だんだんと慣れてきて、食べられるようになった、耳障りでなくなったということが起こります。

ところが、嗅覚は特別で、嫌な臭い(におい)を嗅いでいるうちに刺激的に感じなくなった、嫌な感覚でなくなってきたということは起こりにくくなっています。絶対的に「起こらない」と書かないのは、感情の側面があるからで、“好きな人の臭いは気にならない”ということにもなります。

ただし、刺激的な臭いが好ましい匂い(におい)に変化するということではなくて、臭いが刺激を与えて、それに脳が反応するということに変わりはありません。

五感のうちの四感は記憶が影響することがあって、食べたものの味覚だけではなくて、食べる環境でのよい思い出、食べたときの家族や友人との楽しかった記憶が、味の感じ方に好影響を与えてくれます。

ところが、嗅覚による刺激は、記憶に大きく影響されることなく、ストレートに感情を左右することから、よくない臭いは誰にとっても不快なものとなります。

これは、においによって安全を確保するために身につけられた能力と考えられていて、においを嗅げば安全なものなのか、危険なものなのかを判断することによって生き延びていく本能的なものということです。

このことは発達障害がある子どもの支援をする中で強く感じることがあって、発達特性の一つの感覚過敏では味覚、聴覚、視覚、触覚は徐々に慣れてくることはあっても、嗅覚の鋭さは弱まってくることはほぼありません。

普通に考えると日常的な生活臭、人間が当たり前に発する体臭や持ち物などから発せられる臭いも、気分を落ち着かせない、なんとなく気になるというレベルではなくて、刺激が強すぎて集中できない、勉強も身に入らないということが起こっています。

その普通というのが通じないのが発達障害の特徴であり、中でも嗅覚過敏には「これくらいなら平気だろう」ということは通じません。

現在の子どもたちは嗅覚が鈍ってきているところがあり、以前であれば“においを嗅いで安全を確かめた”ということができていて、食中毒を起こすことがあっても感覚が鈍い一部の子どもだけということがありました。

しかし、今はクラス全員が食中毒を起こすことは珍しいことではなくて、それだけ嗅覚が鈍くなっている証拠と言われます。

そのように全体的に嗅覚が鈍くなっているところに、ごく一部が嗅覚過敏であると、よくない臭いの苦しさは気づいてもらいにくくなっています。

そういったこともあるだけに「よい匂いだけを嗅ぎたい」と願うなら、よい匂いを追い求めるようにするしかないということを伝えるようにしています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕