日々修行232 よい匂いを嗅ぐために

今回の「よい匂いを嗅ぐために」は、日々修行220の「よい匂いだけを嗅ぎたい」に続いて書くつもりでしたが、随分と間が開いてしまいました。

匂いに関わる嗅覚は五感の一つで、他の四感(味覚、聴覚、視覚、触覚)とは違った特性があるということを日々修行218で書きました。

味覚、聴覚、視覚、触覚は、これまでに経験してきたことが感覚に影響を与えるところがあるのに対して、嗅覚だけは経験はほとんど影響を与えることはありません。

よい匂いは誰が嗅いでも好ましいもので、よくない臭い(におい)は、臭い(くさい)と表現されるような状態でなくても、これを好むことはありません。臭いは危険を察知する重要なポイントであり、危険を避けるために身につけられた本能のようなものと考えることができます。

嗅覚は安全のための感覚だけではないことは多くの人が知っていることで、嗅覚は好ましいもの(好きなもの、安全なもの)を確認するためにも必要な感覚です。

その簡単な確認法があって、嗅覚が活かされたままの状態で食べ物を口に入れると、通常の味わいが感じられます。これが普通の感覚(食べ物の味わい)だと思っている人が多いかと思いますが、同じものを鼻をつまんで食べてみると味に変化が起こります。

変化が起こるどころか、味覚が極端に低下する、味の判断ができなくなるということもあります。これはにおいが味覚に影響を与えているからで、味覚による感覚だと思っていたことが、実は味覚と嗅覚の合わせ技による結果だということがわかります。

私たちが研究していることの一つに、発達障害による感覚過敏の特性があります。

発達障害に“普通”という表現は相応しくないことは充分に承知していますが、普通なら好ましい匂い、ほとんど感じないようなにおい(匂い、臭い)に過敏に反応して、これが不快を通り越して、危険な状態、逃げ出さないといけない状態となっている人が多く存在しています。

嗅覚に限らず、それぞれの人が、どのように感じているかを他の人は正確には知ることができないだけに、嗅覚の過敏については該当者の体験談から推測するしかないのが実情です。

子どもの場合の嗅覚過敏の特性としては、以下のことがあげられています。

・特定のにおいがものすごく苦手(石鹸、柔軟剤、花、線香、香水、食品、バス、体育館、体育用具室、保健室、絵の具、接着剤などの乗り物のにおい)

・給食のにおいが苦手

・いろいろなにおいがする食堂が苦手

・化粧品売り場や食品売り場、動物園など苦手な場所にいられない

・他の人が気づかないようなにおいにも気がつく

・なんでもにおいを嗅いで確かめる

・唾液や汗など自分のにおいを嗅ぐ

・トイレの前を通れない

発達障害は生涯にわたって特性が継続するので、大人になっても苦しさ、困難さは続いています。これを感情で抑えようとしても、なかなか思ったようにいかないことが、また苦しさを増すことになります。

社会的なにおいの判断は、“普通”の感覚で行われています。これは感覚過敏に限ったことではなくて、嗅覚の過敏は好ましい匂いのはずが、むしろ好ましくない臭いとして蔓延していることがあります。これは“香害”(こうがい)とも呼ばれています。

香害は香りによって気分を害するというレベルではなくて、害悪にもなっていて、避けることができない場合も少なくありません。香りが長続きする洗濯用の柔軟剤があり、これが使われた衣服を着た人が多い満員電車は“公害”そのものという感覚です。

何も気分を害する臭いを撒き散らそうとしているのではなく、それを推奨する立場の人(メーカーや販売会社など)は、よい匂いだと思い、それを広めるのが“善いこと”とも感じているのでしょう。

しかし、それが違っていることもある、ということを伝えることも大切ではないかと考えています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕