「牛肉が食べられない」ということを言うと、以前であれば「値段が高いからだろう」と指摘されることが多くて、体質的な話をする前に妙な指摘をされただけで終わってしまうこともありました。
牛肉は値段が高いというのは事実で、ふるさと納税が一気に拡大していった時代には、返礼品として最も人気が高かったのは牛肉で、それも和牛のA5ランクは希少価値が高いということで、返礼品ランキングでは和牛のA5ランクが大多数を占めるという状態にもなっていました。
ふるさと納税は、自分が選んだ自治体に寄付をすることによって税金の還付や控除が受けられる総務省が創設した制度です。「生まれ育ったふるさとに貢献できる制度」「自分の意思で応援したい自治体を選ぶことができる制度」として始まりました。
ふるさと納税の返礼品について、都道府県のトップ人気を写真で掲載するという企画があって、知り合いの大手出版社がマップの作成を受けました。その内容を事前に見せてもらう機会があって、マップを見た瞬間に感じたのは、「やけに赤いな」ということでした。
その赤い理由は、写真の多くが和牛だったからです。希少価値が高くて、高級な商品が納税をすることで食べられるというので、納税者も自治体も“赤い写真”に傾いていくのは仕方がないことでした。
ところが、A5ランクが注目されすぎた結果、今では国内全体の和牛生産の30%をA5ランクが占めるという状態になって、“希少”というイメージが崩れてしまいました。
そして、昨今の食品の値上がり、それも想像を遥かに超えた高騰に次ぐ高騰で、“高級食材”のイメージが変わってきました。
一般に食べられている食品と和牛A5ランクとの差が縮まり、今では米や野菜が高級食材となってしまいました。まさか米の価格が半年前の2倍を超えるという状況になって、ふるさと納税の返礼品を米で提供する自治体、米を希望する納税者が増えてきました。
「ふるさと納税の本来の姿に近づいた」という声もあり、牛肉の貰い物(返礼品のお裾分け)も減ってきて、始末に困るということもなくなりました。これは私のように牛肉が食べられない体質がある人には、よい結果とも考えられます。
牛肉が食べられないのは、宗教上の関係ではありません。東京で食に関する取材をする中で、「卵乳菜食」の病院を知りましたが、こちらはアメリカの宗教を背景にした病院です。
私の場合は、卵乳菜食でもなくて、たんぱく源は魚でした。私が生まれた新潟県出雲崎町は漁師町で、母親の実家は寺院であったために離乳食は魚食だったと聞きました。
その寺院は浄土真宗であったので、他の宗派のように肉食が禁じられているわけではないのですが、地域性ということです。
しばらくして両親と暮らすことになったとき、そこは父親の仕事場がある山奥の村で、地域の魚といえば川魚が少し食べられるだけでした。
肉は、村の魚屋さんが町場に出て海の魚を仕入れるときに、注文をして買ってきてもらうというくらいでしたが、実際に肉だと思って食べていたのは鯨だったというのは、私ばかりではなくて、地域の子どもも同じでした。
寺院の出身だというと精進料理のために肉食を避けていたと思われることもあるものの、豚肉も鶏肉も、あまり食べる習慣がなくて、牛は農作業をしてくれるものという感覚で、子牛の誕生にも立ちあったことがあるので、牛肉を食べるというのは感覚としてなかったことです。
それは精神的なことのはずですが、なぜが牛肉を食べると消化がよくない、胃もたれするといった、まるで高齢者のような反応は、牛肉を売っている店がある都市部で暮らすようになった小学4年生から、なんと今も続いています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕