私の臨床栄養の師匠は、山本辰芳先生です。その経歴は前回(日々修行52)紹介しました(ほんの簡単にですが)。臨床栄養の技術的な部分は、多くの方々にも学ばせてもらいました。それは食事の質と量に関することが多く、さまざまな栄養理論を学び、発育との関係、病気との関係、運動との関係などは、複数の専門家で表現こそ違っていても、重なるところは多々ありました。
しかし、山本先生のモットーというかスローガンとして掲げていた「文化性のない食事はエサである」という言葉と、その意味合いについては、他の方々から学ぶことはありませんでした。
山本先生は国立病院で、ずっと働き、臨床栄養の現場で発展と変化とともに歩んできました。私が初めて取材をさせてもらったのは国立病院医療センター(後の国立国際医療研究センター)の栄養管理室長を務めているときで、栄養管理室には掲げられていた標語の一つが「文化性のない食事はエサである」という他では目にしたことがない強烈な言葉でした。
給食は、同じメニューのものを同じように作るのが基本であって、業界の人間がよく口にする「個別対応」の実現は、なかなか難しいことでした。病院給食の現場も同じようなところがあり、疾病の改善のために必要な栄養が摂取できればよいという考えがありました。
臨床栄養としての病院給食の基本は、それぞれの人に必要な栄養素が与えられることで、提供される食事は、それが満たされていることは絶対条件です。充分な栄養摂取は提供されたものを全部食べることが前提とされているので、残されるようでは目的を達成することができません。
残さずに食べてもらえるように、食材の質や旬、調理法、味、彩り、温度、盛り付け、食器などの工夫が必要となります。少なくとも「おいしくないから食べたくても食べられない」という声が出るようではいけないということです。
そのような声が食べている人から出るような食事は、食事と言っていいのか、という問題提起をしたのが「文化性のない食事はエサである」というフレーズだと、初めは感じていました。
それだけではないということに気づいたのは、付き合いが長くなってからのことですが、そのことについては次回(日々修行54)に書いていきます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕