まずい食事を提供していたら客足が離れるのは一般的な外食の店舗では当たり前のことですが、まずいのは当たり前と呼ばれる食事の場があります。その最たるものが病院給食の世界です。
もちろん工夫に工夫を重ねて、努力に努力を重ねて、おいしいと感じてもらえるようにしている病院もあります。それも特別料金を取るのではなく、基準給食の範囲内で、ここまでできるのかと驚かれるところもあります。
その一方で、同じ料金なのに、どうやったら、こんな食事になるのかという逆の驚きがある病院給食があるのも事実です。
同じ料理であれば、大量に作ることでおいしくなるというのは、どこの世界でも聞かれることです。ところが、病院給食では100食、500食と大量に作っていても、おいしさということではスケールメリットが出ないということが普通に起こります。
その一番の理由は、病院給食では見た目は同じであっても、それぞれに違っているということがあり、大量に個別の食事を作り、一斉に出さなければならないという関係者以外はわからない事情があるからです。
私が主任研究員を務めていた病院栄養管理研究所の所長が現役時代に務めていた国立病院は、入院患者が1000人を超えていて、同じに見える食事(ある日の昼食)であっても300パターンがあるという状態でした。
これは、おかずが同じということで、主食だけでも普通食(米飯)、軟飯(お粥、重湯)があり、患者によっては流動食やスープといった場合もあります。おかずは疾患の種類や状態によって食材を変える、調理法を変える、味付け(特に塩分)を変えるといったことがあり、見た目が一緒でも中身は違っているということでの300パターンです。
ここまでのことを加えて、内容が同じ基本的な食事を食べているのは200人ほどです。これは食事療法を必要としない患者が食べる常食で、重度の疾患を多く受け入れている大病院では常食は10%にもならないというのは普通のことです。
治療を最優先とした食事は、食べたいものが食べられる、おいしい食材、おいしい味付けとはならないのですが、それでも病院によっては喫食率が違ってきます。
栄養の責任者が患者と話をして、「まずいものを食べさせようとしているわけではない」ということを、しっかりと伝えることによって食べてもらえるようになることもあります。なぜ食べるものを変えるのかの理由と意味を伝え、ただ一方的に話のではなくて理解を得るまで話をするという大事な姿勢です。
口で言うだけではなく、初日は塩味がない食事(食品だけでも1日に1gほどの塩分は含まれている)を出して、味覚が敏感になったところで、少しずつ塩分を増やしていくと制限の範囲内であっても、おいしく食べられるようになるということも実際にあることです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕