日々修行73 忘れられない記憶の苦しみ

年齢を重ねてくると「覚えたいことが覚えられなくなる」ということが起こる一方で、「忘れたいことが忘れられない」ということが、どんどんと増えてくるようになります。

これは脳の記憶を蓄積する“引き出し”の役割をする大脳皮質には多くの情報が入っていて、本人は忘れてしまったと思っていても、しっかりと残っているからです。

常に大脳皮質への情報の出し入れを行っていることで記憶は強化されるわけですが、そのタイミングは睡眠時間中のレム睡眠です。レム睡眠は眠りが浅い段階で、このときに夢をみたり、以前に記憶したことを思い出したりしています。

記憶を高めるときであり、記憶したことを引き出して残すべき記憶なのか、捨ててもよい記憶であるのかの判別をしているときでもあります。忘れたいと思っていることを忘れることができるのか、それとも忘れようとしても忘れられないという困った状態を引き起こしているときでもあります。

同じことを記憶しても、それが脳に深く刻まれるのか、刻まれたことを引き出すことができるのかは、ただ単に記憶に時間をかけたかどうかで決まるものではありません。このことを初めて知ったのは、ゴーストライターとして書籍を書いたときの“著者インタビュー”の機会でした。

記憶したときが特別の機会であったり、普段とは違った覚え方をしたときには記憶が鮮明で、その記憶も薄れにくいという特徴があります。
インタビューをして、その内容を文章としていく中で、著者の経験や特別の世界の出来事、ノウハウを知って本質に迫るというのがゴーストライターの役割ではあるのですが、それが続くと脳の容量の限界まで特殊な情報が脳に刻まれていくようになります。

ゴーストライターとして大手出版社で15年間で150冊を書いてきましたが、そのときに心がけていたのは、著者に成り切って、書いているときには自分の身体が著者になったような感覚で原稿にしていくことでした。

憑依とまではいかなくても、文章の癖まで再現した書き方をしていく中で、著者のノウハウを知ると情報が残るようになり、著者が得るであろう情報にも気づくようになり、その情報も脳に入っていくようになります。

関心がないことは、どんなに重要な情報であっても目の前を素通りすることになりますが、関心があることは、どんどん飛び込んできます。

それが150回も続き、その多くは他の人が体験できないようなことだったので、30年から45年も経っていることも、「忘れようとしているのに忘れられない」という状態が続いています。

その記憶が眠りが浅い状態で繰り返し思い出されて、それを覚えたまま目覚めることが多いので、忘れられない苦しさは今も続いています。忘れたい記憶が出なくなるまで、まだまだ修行は続きそうです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕