日々修行83 100kcal単位で考える栄養学

病院給食の世界に初めて関わったときに、病院栄養管理研究所の先輩の管理栄養士から聞いたのは「治療食は東京大学と慶應義塾大学で違っている」ということでした。病院給食ということでは東京大学医学部附属病院と慶應義塾大学病院で違っているということになります。

よく話を聞いていくと、東京大学だけでなく、慶應義塾大学以外のすべての大学は80kcal単位の栄養学を採用していて、慶應義塾大学だけが100kcalの栄養学を採用していることがわかりました。

病院給食の80kcalについては、大学生時代にアルバイトで編集を担当していた厨房機器の業界団体の機関誌「月刊厨房」の中にも出てきていたので、これが当たり前のことだと思っていました。

その常識からすると、慶應義塾大学病院だけが違ったことをしているのかと思い、なぜ100kcalになったのかを調べてみたら、私の感覚が非常識であることに、すぐに気づかされました。

日本の栄養学は、明治時代に軍隊の食事から始まった歴史があり、そのときには海外の軍隊食を参考にしていました。当時の軍医であった森林太郎はドイツで軍隊の栄養を学び、これを日本に持ち帰りました。森林太郎は文学者の森鴎外の本名です。

ドイツでは軍務の内容によって摂取すべきエネルギー量が違っていて、100kcalを単位として提供されていました。これが基本となって、日本の栄養は軍隊に限らず、100kcalで実施されていたのですが、これが大転換したのは第二次世界大戦の後でした。

戦後の食糧難の時代には、肥料・飼料が不足していたことから食材の成長が悪く、また小さくカットして出されていました。この状態を摂取エネルギー量で調査した研究者が1食あたりの食品のエネルギー量が80kcal前後で合ったことを突き止め、これを日本栄養・食糧学会で発表しました。

この発表者が、私が事務局を務めた産業栄養指導者会の初代の会長であったことから、本人から直接うかがうことができました。

80kcalでは計算しにくいことから単位という考え方が生まれて、「80kcal=1単位」とされました。現在では、1食あたりの食品のエネルギー量は100kcalに近くなっているのに、いまだに80kcalが採用され続けていて、栄養指導を受ける人が理解にくい状態が続いています。

これをなんとかしたいとの思いから、私たちは100kcalの栄養学の普及をすすめています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕