“未病”の発想で感染症に備える

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためには、なんといっても三密回避が重要で、オリンピックが無観客であろうが1万人に制限されようが、人流を抑えることは必要です。オリンピックで人流が増えることが明らかになっているので、だったらオリンピック以外で感染が蔓延しないように、もう一歩踏み込んでの対策が必要と考えるのが当たり前と感じています。しかし、実際にはオリンピック開催日が近づいてきた段階で対策を緩めるようなことになりました。
そのことを、いくら言っても届かないという状況は、なんだか生活習慣病の対策と同じような虚しさを感じます。例えば、血圧が高い人に対して、薬を飲むだけではダメで、運動も食事制限も必要だ、タバコは吸ってはいけないと指導しても、薬を使って下がってきていると、安心して制限を緩めてしまいます。これは糖尿病でも脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症)でも同じことで、数値が下がってきたときにこそ、薬に頼るのではなく、生活習慣を改善して血圧、血糖値、中性脂肪値などを下げることに取り組むべきです。
ところが、見た目の数字に一喜一憂してしまい、数値がよい結果に近づいてくると気を緩めてしまいます。完全によくなった状態で薬もやめて、生活習慣も元に戻すということはあってもよいとしても、まだ下がりきらない段階で、つまり新型コロナウイルスが収束していない段階で、規制を解除したら、また感染確認者が増えてしまうのは当然の結果です。
感染確認者が減ったときこそ、リバウンドしないようにすべきということですが、自分の努力で元に戻ることができる状態は、日本未病学会が考えるところの未病となります。この段階で手を打たずに、高血圧であれば心筋梗塞や脳梗塞といった合併症にまで進んだら、これは自分の努力は通じにくく、医療に頼るしかなくなります。この場合には、不便な状態が一生涯続くことになり、寿命を短くすることにもなります。血糖値が高い状態が続いて糖尿病と診断されても、合併症(網膜症、腎症、神経障害など)が起こらなければ、それこそ糖尿病でなかったのと同じように通院せずに対応することができます。
未病の段階で止めなければならないのに、オリンピックに合わせるように、観客の上限を5000人から1万人に増やして、さらにオリンピックの開会式は関係者を1万人近くも入場させるとしています。これでは、次世代の子どもたちに素晴らしい経験を受け継がせるという立派な考えが、お題目で終わってしまいかねないということです。