未病は健康と病気の間なのか

未病をテーマにした健康寿命延伸のプロジェクトに関わっていることから、メディア関係者から「未病の定義は」という質問が寄せられることが増えています。何度も同じことを答えるのが面倒だ、ということではなく、広く知ってほしいとの思いから、文章化してみました。
日本未病システム学会は“健康と病気の間を科学する”というキャッチフレーズを掲げています。それを普通に分類すると〔健康〕〔未病〕〔病気〕ということになります。健康と病気の間にある未病には二つの考え方があって、「検査をしても何も異常がないのに自覚症状がある」のが東洋医学的未病、「検査で異常が発見されても自覚症状がない」のが西洋医学的未病としています。後者は生活習慣病では当たり前に起こることなので、生活習慣病が西洋医学的未病であると考えている人もいます。
「検査数値の異常も自覚症状もない」のは健康、「検査数値に異常があって自覚症状がある」のは病気ということになるわけですが、「西洋医学的未病は健康と病気の、どちらに近いのですか」という質問をされたことがあります。この答えは簡単で、「近いかではなく、健康そのものです」と返事をしています。
WHO(世界保健機関)は「恒常性が崩れてしまって元に戻らなくなっているか戻りづらくなっている状態で、自立できなくなった状態」を病気と定義しています。では、自立できているうちは何なのかというと、これは健康です。つまり、自立できている間は健康ということになります。これでは検査数値にまったく問題がない人から検査数値に異常があって高血圧や糖尿病と診断された人までが健康となってわかりにくくなります。そこで未病の研究者は、生活改善でよくなる状態を未病1、医療機関で薬物治療が行われている未病2と分類している人もいます。
私たちは、健康という観点から、「自立できていて検査数値に異常がない状態」を健康1、「自立できているが検査数値に異常がみられ、治療や生活習慣改善による自らの努力によって健康1に戻れる状態」を健康2に分類しています。そして、「自立ができずに介護や介助が必要で、治療をしても健康2に戻れない状態」を病気としています。この戻れない状態とは糖尿病などの合併症や重症の疾患を指しています。
私たちが関わっている未病プログラムは、健康2の状態の人を中心の対象としていて、介護予防の分類では一次予防となります。一次予防は、未だに介護が必要な状態ではない65歳以上の人に対して実施するものです。二次予防は、介護が必要な65歳以上の人が、これ以上は悪化しないように、もしくは程度が軽くなるように実施するものです。未病プログラムとして食事の改善、運動の継続に取り組むことで病気にならないようにするだけでなく、健康1に戻ることも目指してアクティブに行動することが重要と考えます。そのために、あらゆる手段を使い、組み合わせてよりよい結果を生み出すのが私たちの役割で、いくら研究しても研究し足りるようなことはありません。