業苦楽17 「負けるが勝ち」の発想

“人情相撲”という言葉があります。対戦相手の事情を考慮して、わざと負けることを一般的には指していて、そういったことは八百長相撲と呼ばれることがあります。八百長(やおちょう)は、金銭が絡んでくることで予定調和の進行をすることで、そもそも八百長は悪い言葉としては認識されていませんでした。

由来は、明治時代の八百屋の店主の長兵衛(ちょうべい)が“八百長”との通称で呼ばれていて、囲碁仲間であった大相撲の年寄・伊勢ノ海には実力で優っていたものの、互角の勝負になるように手加減をしていたことからきています。

その長兵衛さんが、碁会所開きの来賓として招かれていた本因坊と互角の勝負をしたことから、長兵衛の本当の実力が知られるようになり、真剣に争っているように見せながら、事前に決めていた通りに勝負をつけることが八百長と呼ばれるようになったとのことです。

わざと負けるのではなく、互角の勝負ということが重要です。“人情相撲”というのは、まさに一方的に勝つことでも負けたままでいることでもありません。

人情相撲が生きる知恵と結びついているのは以前には各地域にあったことですが、今では隠岐島の伝統的な古典相撲として残されています。祝い事があったときに相撲が開催されて、同じ相手と続けて二番の取り組みがあります。

最初に勝った者は次の取り組みでは勝ちを譲って、1勝1敗で終わります。この勝ち負けのしこり(遺恨)を残さないことが重要なことで、助け合って生きていく島ならでは配慮(人情)の文化です。

八百長の話に戻ると、何も損得なしに負けていたわけではなくて、八百屋の商売のために相手の気持ちをよくすることも時には必要なことで、負けることで別のところで“勝ち”を得ていました。

このような「負けるが勝ち」の発想があれば、自業による苦を楽(“らく”というよりも楽しみ)に変える業苦楽も、そう遠くはないという考えです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕