次世代のために自分を研究材料として活かす

「大人の責務は次世代の模範になること」という考え方があります。これから心身ともに健やかに育ってほしい子どもたちに、みっともない大人の姿を見せたくないという戒めのような考えから発せられることもありますが、実際に模範となるために行動をしている人たちがいます。宗教的な立場や倫理観による行動などもあげられるのですが、これを高齢者の責務として取り組みとしている人たちのことを指しています。
その取り組みのきっかけとなったのは、よど号ハイジャック事件です。1970年(昭和45年)に発生した日本初のハイジャック事件のことで、羽田から福岡に向かっていた日本航空機が赤軍派を名乗るグループにハイジャックされて、福岡から韓国を経由して北朝鮮に向かいました。その後、よど号は韓国に戻って乗客が解放されましたが、初めにタラップを降りてきた乗客が、後に100歳を超えた現役医師として知られた聖路加国際病院理事長の日野原重明さんでした。
事件当日は福岡で日本内科学会総会が開催される予定であったために医師が多く乗っていて、福岡で先に解放された病人の選定は、この医師たちによって行われました。当時、聖路加国際病院内科医長だった日野原さんは乗客を落ち着かせるために先頭の席に移動させられていて、そのために初めにタラップから降りてくることになったのですが、それを見た多くの関係者からお見舞いや寄付が寄せられた、と本人から聞いたのは日本メディカルダイエット支援機構の理事長です。
日野原さんは、多くの方々の好意を次の世代に活かそうと“新老人の会”を結成します。これは新老人運動を実践するための組織で、75歳以上の高齢者に呼びかけて、シニア世代が健やかで充実した生涯を送ることができるように新しい生き方を提唱しています。そして、5つの行動目標を掲げていますが、その中で特筆すべきは「健康情報を研究に」です。
自分の健康情報を研究に活用して、次世代の健康づくりに役立てようということで、シニアが積極的に学び、運動をして、その成果をデータ化して健康増進の研究を推進していました。
日野原さんが105歳で天寿を全うした後、全国団体と地域団体は記念活動をするように変更されましたが、高齢者が次世代のために活動をして、健康面の情報として経験を伝えていくことは、地域にこそ活かされるべきだと考えています。