歩くことによるエネルギー産生

有酸素運動をすると、細胞内のミトコンドリアというエネルギー産生の小器官の中にあるTCA回路でブドウ糖と脂肪酸をエネルギー源として、エネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)が作られます。ATPからリン酸が1個離れてADP(アデノシン二リン酸)になるときにエネルギーが発生します。身体に負荷が高まるウォーキングをするとADPから、さらにリン酸が1個離れてAMP(アデノシン一リン酸)になるとAMPキナーゼという酵素が発生します。すると細胞にブドウ糖を取り込む働きをするGLUT4(グルコース輸送体)が細胞膜に移動して、ブドウ糖が効果的に取り込まれるようになります。これによって多くのエネルギーが発生するようになります。
有酸素運動をすると血糖値(血液中のブドウ糖の値)が降下するのは、このメカニズムによるもので、血糖値が低下すると肝臓で脂肪合成するインスリンの分泌量が低下するために血液中の中性脂肪の減少にもつながります。また、AMPキナーゼは、運動後にサテライト(衛星)細胞を活性化させて、筋繊維にタンパク質を吸着させる働きがあることから、一定の負荷がかかる有酸素運動は筋肉量を増やす効果が高くなっています。
高齢者は筋肉がつきにくく、筋肉量が低下すると元に戻らないと思われがちですが、筋線維は加齢によって減少することはなく、誕生したときから同じ数となっています。そのために、効果的な運動をすれば元の状態に戻すことも可能となっています。
ウォーキングは有酸素運動であることから遅筋を刺激して増やす効果が注目されていますが、負荷をかけることによって無酸素領域の運動とすることができます。運動の負荷に対して酸素供給が間に合わなくなって疲労物質の乳酸がたまってきた状態で、最大酸素摂取量(全力での運動で取り込まれる酸素量)の70%を超えたあたりで切り替わります。多くの酸素を吸い込まないと続けられないような強度の有酸素運動となる速歩きでは、無酸素領域の運動となって、速筋におけるブドウ糖の代謝が進んでいきます。これによって遅筋を増やすことができます。
有酸素運動としての普通歩行のウォーキングと、無酸素領域の速歩を交互に繰り返すことで速筋と遅筋をともに強化することができます。また、歩く速度を変えることによって効果的に筋力、筋持久力、筋代謝力を高めるために採用されるのがインターバルウォーキングです。
運動によって筋肉の能力を高めることによって、筋力強化による歩行能力の維持、転倒防止、フレイル対策だけでなく、短めの時間であっても効果が得られる歩行によって生活習慣病の予防につなげることもできます。そして、糖尿病などの生活習慣病が引き金になって起こるとされる認知機能の向上にもつなげることが期待されています。