新型コロナウイルスの感染拡大から外出自粛が強く要請され、自宅にいるしかないという状況になったために、運動不足による健康被害が強く懸念されるようになっています。この状態を改善するために、歩くことから始めようという呼びかけがされています。ウォーキングは筋肉を強化することや心肺機能を高めることが第一に考えられていますが、有酸素運動のウォーキングによって全身の血流が促進され、脳の血流が高まることから認知機能の向上に寄与することが知られています。
アルツハイマー病発対する危険因子で最も影響度が高いのは「身体的不活動」、いわゆる運動不足で、うつや喫煙、高血圧、肥満を大きく上回っています。それくらい歩くことは重要だということです。
運動と健康寿命延伸の研究として「中之条研究」の成果が基本データとして取り上げられています。この研究は群馬県中之条町で実施された65歳以上の全住民である5000人(重度の認知症や寝たきりの人を除く)を対象に平成12年(2000年)から10年以上にわたって実施された健康研究で、現在も研究は継続されています。その研究の中で、1日の平均歩行数と、そのうちの中強度の活動時間によって、予防できる病気が示されています。
中之条研究では、歩行数と中強度活動時間が増すごとに有病率が低くなることが判明していますが、研究の結果、歩数としては1日に8000歩以上歩くこと、それに加えて中強度の歩行を20分間以上取り入れることが提言されています。中強度の歩行は、会話が続けられる程度の早歩きを指しています。また、12000歩(うち中強度の活動が40分)以上の運動は健康を害する可能性があることを示しています。
中之条研究では、1日に7000歩以上、中強度活動時間15分以上のグループでは認知症がいなかったと報告されています。海外の研究では、認知症の予防には脳トレーニングよりもウォーキングを中心とした運動のほうが効果があるとの研究成果があります。
厚生労働省の『介護予防マニュアル』では、ウォーキングは運動器の機能向上の項目ではなく、認知機能低下予防の項目に採用され、認知機能低下防止・支援マニュアルとして一次予防、二次予防ともにウォーキングを推奨しています。また、国立長寿医療研究センターの『認知症予防マニュアル』では運動による認知症予防を中心として、有酸素運動によるウォーキングをプログラム化してすすめています。