運動による認知機能の改善については多くの研究機関によって研究が重ねられ、運動の実践に役立てられています。
筑波大学と中央大学の研究グループは、うつ病や認知症、注意欠陥障害者などに共通して低下が認められる実行機能に対して、一過性であっても中強度運動に効果があることを明らかにしましたが、前頭葉が担う実行機能(注意・集中、判断、計画・行動を調節する高次認知機能)が短時間の低強度運動でも向上することをヒト試験によって世界で初めて科学的に確認しました。
実験では20代の男女25人が10分間、自転車のペダルをこぐ有酸素運動をしたあとに、パソコン画面に出た色と、色を示す文字が一致しているかなどを即座に判断するテストを行ったところ、脳の中の認知機能を司る前頭前野背外側部と前頭極の活動が運動をしていないときよりも活発になり、認知機能が高まったことがわかりました。加齢やストレスの影響を受けやすい前頭前野の機能向上に、軽運動でも効果があることに関して得られた初の科学的裏付けで、これによって誰でも実行しやすい親しみやすい軽運動も脳に有益な効果を与えることが示唆されました。
筑波大学は、Ⅱ型糖尿病の合併症として知られる海馬機能の認知機能低下のメカニズムとして神経細胞への乳酸輸送を担うMCT2蛋白質の低下と、それを補う形でのグリコーゲン貯蔵量の増加が起こることを新たに見出しました。ラット試験によって、この症状改善には習慣的な中強度の有酸素運動が有効であり、MCT2蛋白質を回復させ、脳のグリコーゲンの補償的増加をさらに高まることが判明しました。
東北大学は、高齢者の比較対象試験によって、4週間のサーキット運動トレーニング(有酸素運動と筋肉トレーニングを30秒間ずつ交互に実施)が実行機能、エピソード記憶、処理速度など広範囲な認知機能を改善することを明らかにしました。
東京都健康長寿医療センター研究所は、簡単な暗算などの認知的負荷がかかる課題を遂行しながら歩行した際に、歩行速度が遅くなる高齢者ほど嗅内野の萎縮が進んでいることを明らかにしました。