歩く目標は1日に1万歩なのか

ウォーキングの目標歩数は、かつては1日に1万歩と言われました。前回の東京オリンピックの年(1964年)に歩け歩けの会(日本ウオーキング協会の前進)が設立され、翌年に日本初の歩数計である万歩メーターが開発され、1日1万歩運動が始まりました。その当時の1日の歩数は平均して7000歩ほどでしたが、運動不足と食事の摂取エネルギー量の増加によって、300kcalほどのエネルギー量過剰となっていました。これを解消するために、1000歩が100kcalの消費に相当するとの計算から、3000歩を加えて、1日1万歩が推奨されることとなりました。
現状の歩数は、厚生労働省の国民健康・栄養調査(平成30年)によると、男性は6794歩、女性は5942歩となっています。健康づくりの目標値を定めた「健康日本21」(第二次)では、20〜64歳の男性は9000歩、女性は8500歩、65歳以上では男性は7000歩、女性は6000歩とされています。
1万歩も歩く必要性はなくて、現状より2000歩を増やすことが目標とされています。実際の健康効果を得るためには、最近では8000歩が目標とされています。
ウォーキングによる健康の維持・増進と歩行数に関するモデルとして「中之条研究」があげられています。これは群馬県中之条町で実施された65歳以上の全住民である約5000人(重度の認知症や寝たきりの人を除く)を対象に歩数計を装着して、2000年から15年以上にわたって実施されている健康研究です。研究の結果、歩数としては1日に8000歩以上歩くこと、そのうち中等度の歩行を20分間以上取り入れることが提言されています。中等度の歩行は、なんとか会話ができる程度の速歩きを指しています。
この場合の歩行数は、ウォーキングで歩いたときの歩数ではなく、1日の日常活動の中での歩行数で、8000歩の歩行の場合にはウォーキングによる歩行数は2000歩を想定しています。20分間の中等度の速歩では2000歩ほどの歩数となることから、このウォーキングは無理のない範囲での速歩となります。
ウォーキングは有酸素運動によって全身の血流が促進され、脳の血流が高まることが知られています。アルツハイマー病発症に対する危険因子で最も影響度が高いのは「身体的不活動」、いわゆる運動不足で、うつや肥満、喫煙を大きく上回っています。中之条研究では、1日に7000歩以上、中等度の活動時間15分以上のグループでは認知症がいなかったと報告されています。