歩数だけが理想的な歩行の評価法なのか

テレビ番組で歩行の話を取り上げているときにコメンテーターが「万歩計」と言ったところ、司会からストップをかけるような発言がありました。「万歩計」というのは特定の会社の商標で、一般には「歩数計」と表示されています。化学調味料、うま味調味料を「味の素」とは呼ばないようにしているのと同じことです。
万歩計という表現が出てきたのは、番組のテーマが1日に1万歩ではなく8000歩が健康によい、ということだったからです。何歩を歩くのが最もよいのか、という議論は前の東京オリンピック(1964年)のときから言われ続けてきました。国民健康・栄養調査で歩行数の結果が発表されるたびに、これを取り上げた番組や記事で、1万歩に対する充足率が言われてきました。一定の数値を掲げるときには、それぞれの対象者によって正しいことの基準が違っていることを考えるのは当然のことです。
今回のテレビ番組では65歳以上の高齢者を対象とした群馬県中之条町での結果が紹介されていました。65歳以上の全町民の約5000人の歩行数だけでなく、活動量も測定して、健診結果などとも比較して、高齢者には8000歩が適当で、そのうち20分間は中強度の歩行をすることが最もよいと紹介されていました。つまり、1万歩でなく8000歩にして、早歩きも取り入れるのがよいということを言っていたわけです。
65歳以上というと、高齢者とひと括りにされることがあるので、若い世代からみると“老人”“年寄り”と思えるかもしれません。しかし、当事者にしてみれば、65歳の人と男性の平均寿命の80歳とでは随分と身体の状況も違い、受け入れられる運動の強度も違えば、運動による効果も違っています。今の高齢者は心身の健康度が高まってきていることから、日本老年学会と日本老年医学会は「75歳以上を高齢者に」と提言するほど高齢者の健康度は高まっています。
大きな集団で傾向を捉えることは研究としては重要なことです。しかし、大きな傾向を、各人に当てはまること、これだけやっていれば大丈夫、これ以上やったら危険という基準にするのは考えものです。大集団で継続的に実施してきた基礎研究を尊重しつつ、その研究成果を元に条件が異なる人にとって最もよいプログラムを提供するのが、健康寿命を延伸するためには非常に重要になります。このプログラムは運動だけに注目するのではなく、どのような身体状況なのか、基礎疾患の有無と程度、食事や休養の条件なども考慮に入れる必要があります。
運動は運動だけ、食事は食事だけというのではなく、食事と運動のタイミング、食事と休養のタイミング、運動と休養のタイミングというトライアングルの関係で、それぞれの効果を高める方法があります。その方法を医科学レベルで研究したのがメディカルダイエットです。
ある地域で暮らす方々が、その環境の中で、どのような歩数がよいのか、どのような歩行法がよいのかを研究して、その結果を各地に広げることを目的として、日本メディカルダイエット支援機構は岡山の東備地域でリサーチを始めています。