抜け毛の原因はホルモン分泌の変化、血流低下、栄養不足など、さまざまな原因があげられています。その一つに糖尿病を指摘する専門医もいます。糖尿病になると血流が低下して、そのために毛髪を作り出す毛母細胞に栄養が充分に送られなくなり、毛髪の成長が遅れたり、抜けやすくなると言われています。
糖尿病患者は、国民健康・栄養調査の結果によると、約1000万人と推計されています。この数は医療機関に通っている患者数ではなくて、「糖尿病が強く疑われる者」とされています。糖尿病の予備群は国民健康・栄養調査では「糖尿病が否定できない者」とされていて、その数は約1000万人と推計されています。統計の対象は成人人口の約1億人なので、日本人の5人に1人は糖尿病か予備群ということになります。
糖尿病については男女差が大きく、男性の場合は糖尿病患者だけでも約18%となっています。これだけ糖尿病の人が多く、糖尿病のリスクが高い人がいて、さらに男性のほうが発症率が高いとなると、糖尿病と抜け毛の関係が気になる人が増えるのも当然のことかもしれません。
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が多くなりすぎて、尿の中に糖が多く含まれることから名付けられました。余分な糖が出てくるのだから問題はないのではないかと単純に考える人がいるかもしれませんが、全身の細胞のエネルギー源となるブドウ糖が細胞に適切に取り込まれなかったために血液中で濃くなったことから、血管にダメージが与えられます。血液中のブドウ糖が多くなると、血管の細胞にブドウ糖が入り込み、糖アルコールに変化します。また、糖には水分を吸着する作用があるために、細胞内の水分が多くなります。
細胞は水分量が一定の状態で正常な働きをするため、水分量が多くなると新陳代謝が低下してしまいます。細胞の再生が遅くなることから、血管がもろくなり、傷つきやすくなっていきます。糖尿病の最大の問題は血管の老化が進み、そのために合併症が起こることです。
糖尿病の合併症のうち糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害は三大合併症と呼ばれています。網膜、腎臓、神経細胞は毛細血管が密集していて、血管の老化によって血液が充分に送られなくなり、酸素も栄養素も不足した状態になります。そのために合併症が起こるわけですが、そのほかにも毛細血管が多い脳、心臓、皮膚などにも影響が出てきます。毛髪が生えている頭皮も皮膚の一部で、頭皮は特に毛細血管が多く、さらに血流が低下しやすいことから、糖尿病になったり、その予備群となっただけでも毛髪の状態への悪影響が考えられているわけです。
糖尿病と予備群は血流が低下して酸素と栄養素が充分に運ばれなくなるだけでなく、血液中のブドウ糖が多くなりすぎたために、さらに毛髪の状態に悪影響が出てきます。毛細血管の直径は5〜8μm(マイクロメートル)です。1μmは0.001mm(ミリメートル)、つまり1000分の1mmです。毛細血管という名前から、毛髪の太さをイメージするかもしれませんが、毛髪の太さは0.05〜0.08mmで、毛細血管は10分の1以下のサイズです。
極めて狭い毛細血管ですが、ここを通過する赤血球の直径は7〜8μmです。毛細血管の中でも太めのところは、そのまま通過できても、細い部分を通過するときには扁平して(つぶれて)通っていきます。
これは赤血球が一つひとつ独立しているから可能なことですが、血液中のブドウ糖が多くなって血糖値が高い状態になると、赤血球がくっつくようになります。くっついた赤血球は毛細血管を通過することができなくなります。赤血球は肺で酸素を受け取り、全身の細胞に酸素を運び、不要となった二酸化炭素を肺まで運んでくるという働きをしています。
毛細血管を通過できる赤血球が少なくなると、その毛細血管が通っている部分の細胞は酸素が不足して、二酸化炭素が多い状態になることから、細胞の新陳代謝が低下することになります。その結果、毛髪に影響が出てくるということで、抜け毛は糖尿病を発見するサインの一つとされているのです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕