強いストレスを受けたために一晩にして黒髪が白髪になった、という伝説がありますが、そのようなことが実際に起こるのかといったことは、よく話題にのぼります。一晩にして白髪になったというのは、フランス革命で処刑されたマリー・アントワネットの処刑前日の話として伝えられていることです。
毛髪は、もともとの色は白で、メラノサイト(色素形成細胞)で作り出されたメラニン色素によって黒色となっています。メラノサイトは毛母細胞に接した毛球にあります。メラノサイトの働きが弱くなると、メラニン色素が少なくなり、メラニン色素の量が大きく減少すると白髪になります。この変化は徐々に起こるもので、一晩にして変化するということは通常では考えられません。
ストレス白髪の関係は、これまでにも複数の研究者によってメカニズムの解明が進められてきましたが、アメリカ・ハーバード大学の研究チームがストレスによって白髪が発生するメカニズムを発表して、これがイギリスの著名な科学誌『ネイチャー』に掲載されました。研究はマウスを使った動物試験の結果ですが、マウスにストレスを与えて、白い毛が生えてくる過程を観察しました。
ストレスを感じたときには自律神経の交感神経の働きが盛んになり、神経伝達物質のノルアドレナリンが多く放出されます。ノルアドレナリンが放出されると血圧が上昇し、心拍数や呼吸数が増加して、体を活動的にさせてくれます。研究チームは、ストレスが高まったときには、毛根付近の細胞を活性化させることを突き止めました。
毛根付近にある幹細胞は通常では、髪が生える過程で徐々に色素細胞に変化して、毛髪の色素が作り出されていきます。ところが、ノルアドレナリンによって過度に細胞が活性すると、色素細胞に変化するスピードが早まり、早くメラニン色素が少なくなります。
ストレスを受けると血管が収縮して、血流が低下します。これも交感神経の働きが盛んになったときの反応ですが、そのために頭皮に酸素と栄養成分を運んでいく毛細血管の血液の流れが減って、毛母細胞にもメラノサイトにも必要な成分が届きにくくなります。このことが白髪になりやすくさせるとともに、毛髪の成長も遅らせることになるわけです。
白髪は年齢を重ねると増えていくのが通常のことですが、若白髪と呼ばれるものがあります。若白髪の原因は、ストレス、不規則な生活、栄養不足、過激なダイエットなどがあげられているものの、それには心当たりがないという人も少なくありません。
遺伝が最も大きな要因と考えられていて、通常では白髪は30代後半から40代前半で出始めますが、遺伝の影響を受けると10代から出ることもあります。両親のどちらかが白髪ということではなく、どちらかが若白髪であった場合には、その体質を受け継いで白髪になる可能性が高まります。
白髪が出始める時期については、中国最古の医学書とされる2000年前の後漢の時代に記された「黄帝内経」の中に書かれています。女性は7の倍数、男性は8の倍数の年齢を節目に体の変化が訪れるとして、女性は42歳で、男性は48歳で白髪が目立ち始めるとの記述があります。7の倍数、8の倍数ということでは6周期目となります。平均寿命が延びた現代では、もっと遅くなって50代になって白髪が目立つようになっています。
ちなみに、未病という言葉は「黄帝内経」の中に初めて登場したもので、白髪が生えてくるのは体の変化の一つの兆候とみられています。
白髪は処理を間違うと増えていくと言われています。その間違いというのは抜くことです。白髪は毛母細胞に接したメラノサイトでのメラニン色素の量が少なくなるために起こるもので、抜いたあとに生えてくる毛髪も同じ特徴を持っているために、白髪が生えてきます。
白髪を抜いたからといって他の毛髪が白髪になるわけではないのですが、毛髪は一つの毛穴から2〜3本が生えていることから、同じところから生えている毛髪は同様にメラニン色素の量が少なくなっている可能性が高くなっています。このことから、抜いた後に白髪が増えたように見えるという結果につながっています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕