毛髪の科学23 壮年性脱毛症の新たな治療法

自家毛髪培養細胞を用いた細胞治療法が、脱毛症や薄毛に悩む男女に対して安全性と改善効果があることが認められたことを、東京医科大学(皮膚科学分野)、東邦大学(医療センター大橋病院皮膚科)、資生堂(再生医療開発室)の研究チームが発表しました。

再生医療というと、これまでは怪我や病気によって失われた機能を再生することを目的として臓器や器官を元に戻すことに注力されていましたが、再生医療による新たな薄毛治療法の開発に向けた重要な研究成果として注目されています。

再生医療は既存の治療法では対応できない疾患に対して、ヒト由来の組織や細胞を移植して、自己再生能力によって治癒する治療法ですが、これには患者自身の細胞を用いる自家細胞移植と、他人の細胞を用いる他家細胞移植があります。今回の共同研究の技術は免疫拒絶などの副作用が少なく、安全性が高い自家細胞移植となっています。

脱毛症の中でも発生頻度が高い男女の壮年性脱毛症は重篤な疾患ではないものの、外見が気になる人にとってはQOL(生活の質)に関わる重要なことで、新たな治療法が求められていました。

壮年性脱毛症の治療法としては、国内では概要の育毛剤・発毛剤や男性ホルモン抑制効果がある経口治療薬など複数の薬剤などが使われていますが、継続的な服用が必要となります。

また、女性では用量に制限があったり、経口治療薬が使用できないなど薬剤の選択肢が限られていることから、男女ともに充分な効果が得られるものではないと考えられてきました。

研究チームは毛球部毛根鞘(DSC)細胞加工物(S–DSC)を用いた自家培養細胞の頭皮薄毛部への注入施術の臨床検査を実施しました。S–DSCは、東京医科大学、東邦大学、資生堂が共同開発した細胞加工物と医療施術となっています。

その実施方法ですが、被験者の後頭部から少量の皮膚組織を採取して、毛包のDSC組織を培養してS–DSCを獲得して、50人の男性と15人の助成の脱毛部頭皮の4つの異なる部位に、異なる量のDSC細胞、DSCを含まないプラセボ液を注入して12か月後まで総毛髪密度、積算毛髪径、平均毛髪径を測定しました。

その結果、DSC細胞を注射した部位の総毛髪密度と積算毛髪径は6か月後および9か月後にプラセボと比較して有意に増加しました。その有効性に男女差はなく、重大な有害事象も認められなかったといいます。

毛髪の試験というと、これまでは動物試験によって毛髪の一部が増えることは確認されていたものの、被験者を対象とした例は多くはありませんでした。

また、男性と女性では脱毛や薄毛の原因が異なり、その部位も異なることから、同一の方法で同じような結果を出すことは難しいと考えられていました。

有効な濃度と安全性の高い濃度を確認することも手間がかかることですが、この臨床試験では、S–DSCを薄毛部の小さな面積に一度だけ注射することで、有効な細胞濃度を決定して、安全性についても確認することができたといいます。

実際の治療法として使用するためには、薄毛部全体に複数回投与して、見た目でわかる治療効果と安全性を確認する必要があります。まだ、実用化までは期間がかかるものの、大きな期待が寄せられていることです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕