薄毛は頭皮の皮脂が酸化して毛穴を詰まらせることが原因だという考えがあって、皮脂を増やさないこと、皮脂が詰まらないようにシャンプーとマッサージを欠かさないことがあげられています。
皮脂の酸化が毛髪に影響を与えるのは間違いないことではあっても、それと同じように注意しなければならないのが糖化です。
糖化というのは、食事で摂取した糖質(炭水化物)に含まれているブドウ糖が体内のタンパク質と結合することを指しています。糖化によって作られるのがAGEs(Advanced Glycation End products)で、終末糖化産物と呼ばれています。
AGEsは皮膚や血管を構成するタンパク質が糖化すると発生して、細胞の老化が起こります。それによって細胞の新陳代謝が遅くなり、毛髪の場合には抜けやすくなり、抜けたあとの再生が遅れて、徐々に薄毛の傾向になっていくのです。
ブドウ糖とタンパク質が結びつくことで代表的なのは、血液中のヘモグロビンA1cです。赤血球の中にはヘモグロビンという赤い色素があって、ヘモグロビンのタンパク質はブドウ糖と結びつきやすくなっています。
糖尿病の検査結果でよく出てくるヘモグロビンA1cはヘモグロビンが糖化したものです。ヘモグロビンA1cは2〜3か月かけて作られていくので、長期間の血糖値(血液中のブドウ糖の量)を知ることができます。
赤血球のヘモグロビンは酸素を結合させて全身に酸素を運ぶ役割をしていますが、ヘモグロビンA1cは酸素を結合させることはできても、酸素を離すことができないので、結果として酸素を運ぶ能力がないものです。
そのためにヘモグロビンA1cが増えると全身の細胞が取り込む酸素が減って、全身の細胞に影響を与えることになります。
毛髪は毛母細胞が活性化することで成長することができるわけで、毛母細胞に運ばれる酸素の量が減ったら正常に働くことができなくなります。これだけでも発毛に影響が出てしまいますが、酸素を取り込んで働く毛母細胞のほうが糖化したら、さらに悪影響が出ることになります。
赤血球は作られてから役目を終えて壊れるまでの期間が4か月ほどとなっています。そのために一時的にヘモグロビンA1cが増えても期間を経ることで減らすことができます。ところが、体を構成する細胞が長期間にわたって糖化されると劣化して元には戻らなくなります。この劣化したものがAGEsです。
血管が糖化すると弾力が失われて、血流が低下するようになります。頭皮に弾力性があるのはコラーゲンや弾性繊維といったタンパク質で、このタンパク質がAGEsによって糖化が進んだ状態になると、ますます血流が低下して、毛髪も生えにくくなるのです。
育毛に影響が出るだけでなく、栄養成分が不足すると白髪にもなりやすくなります。血管の糖化によって全身の血流が悪くなると肝臓などの内臓にも影響が出ます。肝臓ではアミノ酸から体に必要なタンパク質を作り出しているので、肝機能の低下は毛髪の状態も含めて全身の健康に影響を与えることになるのです。
糖化によって作られたAGEsは、もともと体にあったものではない有害物で、これを免疫細胞の白血球は外敵とみなして攻撃を始めます。攻撃するときに生理活性物質のサイトカインが作られます。
サイトカインは過剰に発生すると全身の細胞に慢性的な炎症を引き起こします。頭皮の細胞に炎症が起こると発毛にも影響が現れます。糖化は複数の理由で脱毛を起こす要因となっているのです。
AGEsは毛髪そのものにも影響を与えます。毛髪の主な成分はケラチンで、18種類のアミノ酸が結合して作られたタンパク質です。タンパク質であるので、当然のように糖化の影響を受けることになります。本人は糖化の影響を受けていないつもりでも、案外と多くの人の毛髪が部分的であっても糖化しています。
毛髪の検査するときには3分類して基部、中部、先端部と分けています。根元の基部は5〜10cmで、中部と先端部は半分ずつほどになっていますが、それぞれのAGEsの量を測定すると先端部、中部、基部の順にAGEsが多くなっています。
毛髪は先端部に行くほど傷みが多くなり、これは先に発毛した部分が早く老化しやすいからだと考えられていましたが、AGEsのことがわかると糖化の影響を受けていることが毛髪の傷みに関係していることが理解できるようになるかと思います。
糖化を起こす要因はブドウ糖の過剰摂取です。ブドウ糖は食品の糖質に多く含まれていて、特に多いのは砂糖です。砂糖はブドウ糖1分子と果糖1分子で構成されています。甘いものを食べると一時的に血液中のブドウ糖が増えて、糖化が進みやすくなります。
通常はブドウ糖は全身の細胞でエネルギー源として最優先で取り込まれるので、長く血液中に濃い状態で止まることはありません。
しかし、糖尿病の人はブドウ糖を取り込む能力が低くなっているので、どうしても血液中のブドウ糖が多くなります。甘いものが好きであったり、太っていて糖尿病の可能性が高い人は、糖化が進みやすくなっているのでブドウ糖の取りすぎには注意が必要です。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕