喫煙の影響というと、肺の機能の低下、がん、高血圧、循環器病、糖尿病などがあげられていましたが、最近では酸素不足による全身への影響ということで、うつ病や認知機能の低下、さらに皮膚や毛髪への影響も言われるようになってきています。
国立高度専門医療研究センター6機関(国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター)が連携して研究を進めていて、その研究成果として「疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)」が公開されています。
その発表の第一弾が「喫煙・受動喫煙」で、食事や運動などよりも重要事項として注意が呼びかけられています。
多くの研究によって明らかにされているのは、がんになるリスクは喫煙者(タバコを吸っている人)では非喫煙者(タバコを吸っていない人)の1.5倍(男性1.6倍、女性1.3倍)、がんの死亡リスクは男性で2倍、女性で1.6倍とされています。
女性は男性よりも全体的にリスクは低いものの、メタボリックシンドロームと指摘されるほど太っている女性が喫煙した場合には非喫煙者に比べて循環器病の発症リスクが5倍ほども高くなるとの報告があります。喫煙者の糖尿病リスクは非喫煙者の1.4倍との報告もあります。
自分はタバコを吸っていなくても、他人の吸ったタバコの煙を吸い込む受動喫煙も問題で、非喫煙の女性で夫が喫煙者であって場合には肺腺がんのリスクが2倍、肺がんのリスクが1.3倍高くなるという報告もあります。
タバコを吸うと体の中では、どんなことが起こっているのかということですが、喫煙をすると血管が収縮すると同時に、血液の粘度が高まることから血流が低下します。そのために毛細血管の先にある全身の末梢の細胞に新鮮な酸素と栄養素が充分に届けられなくなります。
これを改善して血流を盛んにするために、ストレスホルモンが多く分泌されて、自律神経の交感神経の働きが盛んになり、血圧が上昇して脈拍も増えるようになります。
さらに喫煙すると、肺に多く吸い込まれた一酸化炭素が血液中に入ります。一酸化炭素は酸素を運ぶ役割をしている赤血球のヘモグロビンに優先的につくために、酸素を充分に運べなくなります。すると、酸素不足になって、これを解消するために脈拍が高まるのです。その回数ですが、タバコ2本について脈拍は10拍増加するといいます。
いつもタバコを吸っていると、酸素を多く運ばなければならないために、骨髄では酸素を運ぶための赤血球を多く作り出すようになります。赤血球が多くなりすぎた状態は多血症と呼ばれています。さらに血流が低下した結果として白血球も増えて、血液中で増えた赤血球と白血球によって血液中が混雑した状態となります。そのために血液粘度が高まって、毛細血管の流れが悪くなります。
毛細血管は赤血球よりも細くて、その中を赤血球はつぶれるようにして通過していきます。赤血球が多くなると、どうしても通過するのに時間がかかって、毛母細胞を含む末梢の細胞に送られる酸素と栄養素が減ることになります。
血液ドロドロというと、肉など脂肪が多く含まれる食品の食べ過ぎによって血液中の脂肪が増えることだと一般に認識されていますが、実際には赤血球の増えすぎによって血流が低下していることも大きく関係しているのです。
タバコを吸ったことで、どれくらいの酸素が不足するのかということですが、禁煙外来で喫煙者の呼気に含まれる一酸化炭素の濃度を測定すると、タバコを1日1箱(20本)を吸っていた場合には20〜25ppmになっていました。これは血液中の一酸化炭素ヘモグロビン濃度では4〜5%に相当する量です。
一酸化炭素ヘモグロビン濃度の正常値は2%未満とされていることから、4〜5%というと軽度ではあっても一酸化炭素中毒と判断される状態です。
一酸化炭素ヘモグロビン濃度が高いということは、それだけ酸素の量が少ないということです。正常な状態では赤血球が運んでいる酸素の量は100%ですが、これが喫煙者は94〜95%に低下しているということです。
これだけの低下は、健康な人が標高2000mの高山に登ったときの酸素飽和度に相当しています。登山をしているときには酸素不足によって体力が続かず、注意力や集中力が低下するなど脳の機能も低下していることを感じてしまいますが、それと同じことが平地にいても起こっているのが喫煙者であり、喫煙者の近くで暮らしているための受動喫煙をしている人の状態なのです。
吸い込まれた酸素は、生命維持に必要なところに優先的に運ばれます。毛母細胞は、薄毛を気にしている人にとっては重要なところではあっても、身体的には最も遠いところで、酸素量が不足したときに届けられる量が少なくなるのは仕方がないことです。
酸素の供給量の減少は、タバコだけでなく、大気汚染でも室内に浮遊する科学物質でも起こることです。ストレスによっても血管が収縮して血流が低下することを考えると、毛髪の環境が悪化するのは仕方がないことで、これまでのヘアケアでは薄毛を防止することができない人も増えてしまいます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕