毛髪の科学44 飲酒ができないことが毛髪に影響するか

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために、外食店でのアルコール提供を止めなければならない状況になったとき、外食の内容も変化しました。これは飲酒なしで食事をしなければならない、それでは収益も上がらないという話だけではなくて、アルコール飲料なしの食事で、食べるものの中身が変わってきたということです。

アルコールが含まれないノンアルコールの飲料といえばビール系の飲料が代表的です。ノンアルコールのワインや日本酒、焼酎、レモンサワーも登場して人気になっていますが、ノンアルコールのウイスキーはまだ数が少なくて手に入りにくい状態です。

アルコール飲料の提供ができないとなると、その代わりにノンアルコールビールが中心になりがちですが、アルコールが含まれていなくても、ほとんど味はビールなので、ビールに合う料理は、そのまま味を楽しむことができます。

ビールに合う焼き鳥や焼肉などは、従来の味付けのままで問題はないとしても、ワインに合う料理となると、ビールでは物足りない感じがします。ワインは料理の味を引き立て、その料理はワインの味を引き立てるとされていて、濃厚な味の料理には濃い目の料理が合っています。濃い目の料理というと、脂肪、糖類、塩分が多く使われます。

ワインで食べる料理を、そのまま他のノンアルコール飲料のときに出すわけにはいかないからと、アルコール提供自粛期間には料理の味付けを変えて出すところも多く見られました。

このことが毛髪の状態に影響を与えたのかということですが、過度な飲酒は毛髪の悪影響を与えるとしても、適度な飲酒は、かえってよい影響を与えることになります。

適度な飲酒というのは、日本酒に換算して1合(180ml)の量とされています。アルコール度数によるものの、ビールなら中ビン1本、ワインならグラス1杯、ウイスキーならダブル1杯といった量に相当します。

胃まで到達したアルコールは、そこで約20%が吸収され、残りの約80%は小腸から吸収されます。吸収されたアルコールは血液中に入るわけですが、そのうちの3〜9%はアルコールのまま呼気や汗、尿として排泄されます。

適度な飲酒はホロ酔い状態になって、血中アルコール濃度は0.05〜0.1%になります。このときには体温が上昇して脈が少し早くなり、血流も盛んになっています。アルコールには血管を拡張させる作用があって血圧を低下させます。

アルコールの量が増えすぎると血管がゆるみすぎて血流量が低下して、全身に届けられる血液が減ることになるので、急に血圧が上昇するようになります。血圧が下がるのは日本酒換算で1合まで、血圧が元に戻るのは2合まで、これを超えると血圧が急上昇するとされています。

飲酒のときに塩分が多めの料理を食べても、適度な飲酒量なら塩分(ナトリウム)のせいで上昇する分の血圧が抑えられるということになります。

血流が盛んになれば酸素も多く取り込まれるようになって、全身の細胞のエネルギー代謝も高まっていきます。そのため、飲酒のときに血流に悪影響を与える塩分や脂肪、糖分が多めに使われた料理を食べたとしても、脂肪や糖分がエネルギー源として使われて、デメリットをアルコールのメリットが帳消しにしてくれるということが期待できるわけです。

肉などに含まれる脂肪酸(飽和脂肪酸)は血液をドロドロにするタイプの脂肪で、糖分に含まれるブドウ糖は血液をベタベタにする作用があります。ドロドロでは血流が悪くなり、さらにベタベタの状態では赤血球が毛細血管を通りにくくなって、毛細血管の先にある毛母細胞に運ばれる酸素の量も栄養素の量も減ってしまいます。

毛母細胞に限らず、全身の細胞はエネルギー源になるブドウ糖を取り込んで、水溶性ビタミンと酸素を使ってエネルギーを作り出しています。細胞で作られたエネルギーは、その細胞の中でしか使うことができないので、毛母細胞が元気に働いて毛髪を育てるためには、すべての毛母細胞に水溶性ビタミンと酸素を届ける必要があります。

適度な量の飲酒をしているときなら、少しくらい脂肪や糖分を多めに摂っても問題はないのですが、アルコール飲料なしで食べるとなると、これらの摂りすぎには中止しなければなりません。

飲酒をしているとアルコールはすぐにエネルギー化しやすいために、体温が上昇して毛細血管も血流がよくなっています。ノンアルコールでは、そのメリットもなくなります。また、適度なアルコールは脳の大脳皮質を適度に麻痺させることでストレスや抑制が取れていきます。

本能や感情を司っている大脳辺縁系は、適度なアルコールの量では麻痺はしないので、気分的に優れた状態が保持されて、これが飲酒によるストレス解消というメリットを作り出しています。ところが、日本酒換算で3合以上の酩酊状態になると、大脳辺縁系も麻痺して、行動が怪しくなってくると同時に、全身の内臓や器官の働きにも悪影響が出てきます。

適度な飲酒だから安心して濃い味付けの料理を多く食べても毛髪に影響がないということではないものの、少なくとも影響を抑える効果はあります。ノンアルコール飲料で我慢するときには、こういったメリットが弱まっているということを意識して、おいしさにつながる塩分、脂肪、糖分は控えめにしておいたほうが毛髪の健康にはよいということを知っておいてほしいのです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕