寝る前のタイミングで洗髪をすることは“夜シャン”と呼ばれます。もともとはなかった言葉で、寝起きにシャンプーをする“朝シャン”に対して、一般的な入浴して洗髪もするタイミングを区別するために“夜シャン”という呼び名が使われるようになりました。
朝シャンをする人の割合は調査によって差はあるものの、15%前後になっています。わざわざ朝シャンをするのは、寝る前に洗髪すると乾かすのに時間がかかって寝る時間が短くなる、寝癖を直す手間を省ける、清潔な髪で外出したいといった理由があげられます。
毛髪の成育のことを考えて、頭皮の皮質をよるだけでなくて、朝にも取り除いて清潔にしておこうという人もいるようですが、洗いすぎると頭皮も毛髪も脂肪が取り除かれすぎて、かえって傷みやすくなるというマイナス面が指摘されます。頭皮が多すぎる人以外は、就寝前か起床してからの、どちらかにしておいたほうがよさそうです。
毛髪の研究が進むにつれて、朝シャンよりも夜シャンのほうが毛髪のためによいことだと説明されるようになってきました。それは成長ホルモンとの関わりです。
毛髪の毛母細胞は成長ホルモンの影響を受けて増殖しています。毛髪は成長期、退行期、休止期を経て脱毛するというヘアサイクルとなっています。ヘアサイクルの4〜6年の期間のうち退行期は2〜3週間、休止期は数か月ということから、多くの期間は成長期となっています。成長ホルモンの影響を受けているのは、成長期だけです。
成長ホルモンは全身の細胞の成長や新陳代謝に働きかけていますが、毛髪の場合にはIGF–1(インスリン様成長因子1)を分泌させて、毛母細胞を活性化させています。
成長ホルモンは20歳をピークに、年齢を重ねるにつれて分泌量が減っていきます。成長ホルモンは身体の発育期には、その名のとおり成長をさせるホルモンとなっていますが、成人の場合には成長よりも新陳代謝と疲労回復のためのホルモンとなっています。ただし、毛髪の場合には40代までは分泌量は保たれています。
それでも30代で薄毛となってしまう人が多いのは、成長が盛んなときには、毛髪にダメージを与える要因があっても、それを超えるくらいの成長があるからです。ところが、成長ホルモンの量が徐々に減ってくるとダメージを受けやすくなり、これが薄毛を進める原因ともなります。
成長ホルモンの分泌量が減ってきても、それをカバーするための方法があります。それは睡眠時間の確保と熟睡です。成長ホルモンの分泌量は、身体の成長期には1日を通じて多いのですが、20歳を過ぎると多く分泌される時間が決まってきます。多く分泌されるのは運動後の時間と、就寝中です。
毛髪の健康のために運動を習慣にすればよいと言われても、そのための時間を自由に作れる人は少ないはずです。それに比べると寝るこことは誰もが毎日行っていることです。ただ睡眠時間を確保すればよいということではなくて、寝るタイミングと睡眠の質が大切になります。
就寝中に成長ホルモンが多く分泌される時間は22時から2時までの4時間とされています。その中でも分泌量が多いのは深夜の0〜2時ですが、この時間に寝ているだけではなくて、もう一つ条件があります。それが熟睡で、0〜2時に熟睡しているためには少なくとも1時には就寝することがすすめられます。
睡眠のリズムは個人差があるものの、90分のサイクルが基本となっています。45分をかけて睡眠が深くなり、45分をかけて浅くなっていきます。熟睡しているのは、このうちの半分ほどで、寝ついてから20〜25分はかかります。
布団に入ってから、すぐに就寝に入れればよいものの、寝つくまでに時間がかかる人の場合には、余裕をみて熟睡する時間の1時間前には布団に入ることが求められるというわけです。
成長ホルモンが分泌されていても、頭皮の毛穴の中に皮脂が詰まった状態では毛母細胞の成長が妨げられることになります。皮脂は毛穴の中にある皮脂腺から分泌されていて、これは頭皮に出ることによって皮脂膜が作られます。この皮脂膜によって頭皮が守られているわけです。
ところが、皮脂が多く分泌されて酸化すると角質とともに固くなって角栓となります。これが毛穴を詰まらせる原因となっています。角栓が毛穴を圧迫して、毛母細胞を刺激したり、血流を低下させることが毛髪の成長に影響を与えています。
このような状態を解消して、寝ている間に毛母細胞がストレスレスの状態で成長できるようにするために夜の洗髪がすすめられるのです。
夜シャンのもう一つのメリットは、頭皮の血流の促進です。血管をゆるめて血流をよくするのは、自律神経の副交感神経の働きです。副交感神経にはリラックス作用があり、夕方以降は副交感神経の働きが盛んになり、興奮作用のある交感神経の働きが抑えられるようになります。
夜に洗髪をすることは、お湯によって頭皮の血流がよくなり、また洗髪のマッサージ効果も得られます。洗髪のときだけでなく、その前後にゆっくりと入浴することで、全身の血流が盛んになります。
入浴温度が38〜40℃のときに副交感神経の働きが盛んになり、42℃を超えると交感神経の働きが盛んになります。できるだけ副交感神経の働きがよい状態で、長めに入浴することも毛髪の成長にはよいということです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕