毛髪の科学60 薄毛は遺伝のせいなのか

薄毛の対策は数多くありますが、努力によって対処できることもあれば、自分の努力だけではどうにもならないこともあります。努力が結果に結びつく方法としては、シャンプーやマッサージ、食事、飲酒の制限、禁煙などがあり、AGA治療などの治療法は努力の延長線にあります。喫煙は、あとで紹介する男性の薄毛の原因であるDHTを増やすことも知られています。

一方で、努力が通じにくいこととしては遺伝があります。遺伝は遺伝子によって親の形質が子孫に伝えられることで、遺伝子は一生涯、変わることはありません。遺伝的に薄毛の一族に生まれたら、自分も薄毛になる確率が高いことになります。

そうだからといって必ず薄毛になると決まっているわけではなくて、遺伝子の弱点をカバーするように頑張ることで、弱点を減らすことができます。逆に、遺伝子による影響があると、なかなか努力が通じにくいことも事実で、そういった方は薄毛治療で効果が出やすいAGA治療も結果が出にくくなります。

そのような遺伝子の問題があっても、それと無関係に効果が得られるのは、自分の健康な毛髪を移植する自毛触毛です。たとえ頭頂部などが極端な薄毛であっても、他の部分が薄毛でなければ、この部分に関わる遺伝子は自毛触毛によって引き継がれていくので、望むような結果が得られるということになります。

薄毛と遺伝子の関係については、日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」で示されています。男性型脱毛症の発症には、遺伝と男性ホルモンが関与しているとの記載があって、男性型脱毛症のAGAにも遺伝が関係していることが明らかにされています。

遺伝子がつながる誰が薄毛であれば、自分も薄毛になるのかということは特に気になることです。一般的なイメージとしては、父親、祖父が薄毛だと、その子も薄毛になるように思われるかもしれませんが、実際に遺伝しやすいのは母方の祖父、曽祖父のほうです。

父親が薄毛でないのに自分が薄毛になる場合があり、祖父や曽祖父の遺伝であることを隔世遺伝といいます。一つの世代を飛ばして遺伝の特性が現れることです。

祖父だけでなくて、曽祖父も薄毛であった場合には、遺伝が色濃く現れる確率が特に高くなって、AGAも発生しやすくなります。ということは、この遺伝タイプで薄毛の兆候が現れたら、できるだけ早くAGA治療の相談をしたほうがよいことになります。

また、AGA治療の効果が表れにくい遺伝子を持っている可能性も高くなるので、早いうちに自毛植毛の検討も始めたほうがよいということにもなります。

どれくらいの確率で薄毛が遺伝するのかも気になるところです。

AGAは薄毛に関係する男性ホルモンはDHT(ジヒドロテストステロン)ですが、テストステロンと5αリダクターゼという還元酵素が結合することによってとDHTとなります。DHTによって脱毛因子のTGT–βが増加して、毛母細胞の毛乳頭細胞にシグナルが出されます。

そのシグナルは毛髪サイクルの退行期を進めるもので、これによって太い毛髪に成長していく前に抜けてしまうので、薄毛になっていくという仕組みになっています。

DHTが増えれば、必ず脱毛するというわけではなくて、脱毛の要因となる男性ホルモンレセプター(受容体)の感受性によって異なります。男性ホルモンレセプターは男性ホルモンをキャッチする働きをしていて、男性らしい体つきや体毛の濃さに関わります。

ところが、DHTと結びつく性質があることから、体毛は濃いのに毛髪だけは薄くなるという現象を起こしてしまうのです。

感受性が高ければ反応しやすくなるわけですが、それは遺伝子のX染色体によって伝えられます。染色体にはX染色体とY染色体があって、男性はXY、女性はXXの組み合わせとなっています。

男性の場合は、父親からY遺伝子、母親からX遺伝子を受け継いでいます。つまり、母方から継いだX遺伝子の中に薄毛の傾向があった場合に薄毛の体質を受け継ぐということになるわけです。

隔世遺伝で男性ホルモンレセプターの感受性を受け継ぐ可能性は50%に及ぶとされています。それだけでは済まずに、母方の祖父が薄毛の場合には75%、母方の祖父と曽祖父が薄毛であった場合には90%の発現率とされています。

これだけの確率であれば、母方の男性の毛髪の状態を確認すれば、どれだけ薄毛リスクが高いのか、どんな薄毛対策をしなければならないかも見えてきます。

母親の兄弟、その祖母の兄弟を調べればわかることになりそうですが、以前のように兄弟姉妹が多ければ、遺伝も調べやすかったはずです。ところが今は兄弟姉妹が少なく、一人っ子同士の結婚が多くなっている時代だけに、自分だけが薄毛になって、これは遺伝のせいなのか、別に原因があるのか判断がつきにくい状況になっています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕