消化酵素は全部の食品を分解できるのか

テレビの健康をテーマにしたバラエティ番組の中で消化の話があり、「大根にはジアスターゼが含まれている」という言葉が出たときに、このまま気になる発言がなければよいけど……と思って見ていたら、いきなり気になる発言が放送されました。大根に消化酵素のジアスターゼが含まれているのは事実です。だから、消化酵素が破壊されていない状態の生の大根を食べると消化が進むのも事実です。しかし、「ジアスターゼは肉を消化するので、肉を食べるときには大根おろしを食べればいい」という話になると、これは事実に反した情報です。
ジアスターゼは糖質の消化酵素であって、たんぱく質と脂質の消化酵素ではないのです。酵素は特異性があって、それぞれの酵素は一つの仕事しかしません。それなのに消化の専門家(?)として語った医師が、ジアスターゼをたんぱく質の分解酵素のように言ったのは、「ジアスターゼは酵素」と書かれた教科書が以前はあったからです。あくまで以前の話で、栄養学や生理学を学んでいる人なら情報更新されているはずです。
ジアスターゼ(diastase)というのはフランスの研究者が名付けた言葉で、今では英語のアミラーゼ(amylase)を糖質の消化酵素の名前として使っています。アミラーゼは糖質(デンプン)の消化酵素だと教科書に書かれているので、それを間違えて発言する人はいないと思うのですが、ジアスターゼというと消化酵素全般を指す用語で、“アミラーゼとジアスターゼは別物”という情報がインプットされたままの人も少なからずいます。だから、番組の内容をチェックする立場の人もスルーすることになったのだと思います。
アミラーゼが唾液や膵液として分泌されて消化酵素として働くと何が起こるかというと、デンプンが分解されて二糖類のマルトースや単糖のブドウ糖になって、これが吸収されます。ブドウ糖にまで消化されるのは、ただ吸収が早くなって胃腸に負担がかからなくなるだけでなく、ブドウ糖が早く吸収されることによって血糖値が早く上昇するようになります。血糖は血液中のブドウ糖のことをいいます。血糖値が上昇すると、脳の満腹中枢が反応して、食欲にストップがかかるようになります。早く消化されるということは、早く満腹を感じるようになり、食べすぎが抑えられるということです。
血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンにはブドウ糖を細胞に取り込むのを進める働きがあるので、食事で摂った糖質をエネルギーとして効率よく使うことができるようになります。インスリンには肝臓での脂肪合成を進める働きもあるので、血糖値が上がることによって脂肪細胞に蓄積される脂肪(中性脂肪)が多く作られるようになるのです。
ダイエットということで考えると、脂肪合成が進むのはよくないことのように思われるかもしれませんが、脂肪は重要なエネルギー源で、それを増やすことができるのだから、大切なことであるわけです。もちろん、それが行きすぎた場合には、ありがたくない反応ということになります。