運動は無酸素運動と有酸素運動に大きく分けられています。無酸素運動は、その名のとおり酸素を使わずにできる運動のことで、筋肉の中で酸素を使うことなく糖(ブドウ糖)をエネルギーとしています。糖は酸素があることで、細胞のミトコンドリアの中のTCA回路の中で糖を効率よく燃焼させて多くのエネルギーを作り出しています。この仕組みを使ってエネルギーを作り出しているのが有酸素運動です。無酸素運動は息を止めてもできる運動で、短距離走や投てき競技、ウエイトトレーニングなどがあげられます。有酸素運動は長距離走やウォーキング、サイクリング、水泳など呼吸しなければできない運動を指しています。
無酸素運動と有酸素運動では、どれくらいのエネルギーの量の違いがあるかというと、酸素を使わない運動だと糖1分子から2分子のエネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)しか作り出せないのに対して、酸素を使った運動では36分子にもなります。激しい運動のほうが多くのエネルギーを作り出すような印象があるかもしれませんが、無理なく続けられる有酸素運動のほうがエネルギーが多く作られているのです。
有酸素運動なら酸素を充分に取り込んで、全身の隅々にまで酸素を送り込むことができるのかというと、身体への負荷が強まってくると無酸素領域の運動となります。だから、無理をして続けるのではなく、負担が強くなったら強度を落として続ける、むしろ休むようにするといったことが必要になってきます。
この話をしたときに、よく寄せられるのが「無酸素領域になると酸素が届かなくなるのか」という質問です。無酸素領域というのは無酸素運動ではないのに身体の中は無酸素と同じような状態になっていることを指しています。無酸素領域といっても、酸素を吸い込みながらやっているし、無酸素運動と比べたら多くの酸素を吸い込んでいるのに、どうして酸素がないようなことになるのかという疑問が浮かんできているのです。その答えは、「酸素が多くても重要なところに酸素が充分に運ばれていないから」です。
有酸素運動をすると取り込まれた多くの酸素は、酸素を多く使ってエネルギーを作り出す筋肉に送られています。運動の負荷が高まるほど筋肉に運ばれる酸素が多くなります。この状態で有酸素運動のレベルまで負荷を減らすと、多くの酸素が筋肉に取り込まれた状態なので、筋肉の中で作り出されるエネルギーが増えていきます。つまり、だらだらと同じペースで有酸素運動をするのではなく、途中で早歩きするなど負荷がかかるようにすると、エネルギーが効率よく作られるようになるのです。
本題の無酸素領域の話ですが、筋肉の中に多くの酸素が運ばれると、毛細血管に運ばれる酸素が減り、その先につながっている臓器や脳などに運ばれる酸素が減ることになります。心臓は血液を送り出していますが、その働きをするために毛細血管を通して筋肉に酸素が送られています。その酸素量が減ることになると、酸素を確保するために血流を盛んにしているのに肝心な酸素が仕事の割には少ない量しか送られてこないので、心臓に負荷がかかるようになります。
他の臓器も同じような状態になるので、酸素を多く取り込んでいるはずなのに脳の末端まで酸素が充分に送られなくなって、頭が回らなくなってくるのです。酸素を必要なところに送り続けるためには、有酸素運動が重要です。特に血管の硬化が進み、弾力性が低下してくる高齢者や、血管の老化が進んでいる人では、有酸素運動をすることが大切になってくるわけです。