子どものための栄養学の話なのに、成人の高血圧の話から始めさせてもらいますが、塩分好きで濃い味が好きな人には高血圧が多く、食塩を減らすように指導されても、塩分が足りない食事は物足りなくて、塩分を減らせないために血圧が下げられないということが起こります。そのメカニズムですが、塩に含まれるナトリウムが水分を吸着させるために血液量が増えて血圧が上昇することが指摘されています。
塩分を減らすといっても少しの量ではなく、調味料は一切使わず、食材(加工品ではなく肉、魚、野菜など)に含まれているナトリウムだけでも1日に1〜2gにはなります。これだけの量では初めは食事の味を感じないようでも、3日も続けると味覚が敏感になってきて、わずかな塩味も感じるようになります。試験としては、食塩の量が異なる水を作り、少ないものから順に飲んで、味を感じるものの塩分濃度を記録します。3日後に同じ試験をすると味覚に異常がなければ前よりも少ない塩分にも反応するようになります。
水だけでなく出汁(だし)を使って試験をすることもありますが、塩分への反応だけでなく、塩分が少なくても素材や出汁のおいしさがわかるようにもなります。それくらい味覚は敏感であり、長年の慣れであっても修正していくことができます。これは高齢者の例ですが、病院給食で塩分を減らして、代わりに出汁を多く使った汁物を出すと、濃くておいしいと食べてもらえるようになったという報告が多数あります。
子どもは3歳までに味覚が形成されるとされていますが、素材の味を活かした薄めの味付けの食事にすること、和食を中心にした食事にすることで、敏感な味覚にしていくことができます。発達障害の感覚過敏では塩味を痛みに感じる例もみられるくらいなので、薄味の食生活を身につけさせることは難しくはないかもしれません。ところが、感覚鈍麻の場合には味が濃くても、それを感じにくいことが多く、塩分を減らすと何も味がしない食事と感じてしまうことにもなります。