発達栄養学42 脂肪は燃焼しているわけではない

体脂肪をエネルギー源として使って、余計な脂肪を減らすことというと“燃焼”という言葉がよく使われます。細胞の中でエネルギーが作り出されているときに、実際に燃焼するようなことはないのですが、植物油に火をつけると燃えて、徐々に油が減っていくことから、これをイメージして「脂肪が燃焼する」という言い方がされます。
細胞の温度は体温と変わらないくらいですが、その程度の温度では燃焼することはありません。比較的燃えやすい紙でも燃焼しているときには300℃以上で、油は340〜370℃で燃え始めます。こんなにも高温になることはないので、細胞の中で燃焼が起こっていないことは普通に考えればわかることです。
一般に“燃焼”とされるのは、細胞の中で起こっている生化学反応の“代謝”です。エネルギーを発生させることからエネルギー代謝とも呼ばれています。脂肪を構成する脂肪酸は細胞のエネルギー産生器官のミトコンドリアに取り込まれるときにはL‐カルニチンと結びついています。L‐カルニチンは体内で合成されていて、20歳をピークに減少を始めるので、発達障害児の場合には不足することはないはずです。L‐カルニチンはアミノ酸から合成されるので、極端な偏食によってたんぱく質が不足していると合成量が不足することも懸念されます。
L‐カルニチンが不足していると、脂肪酸がミトコンドリアに入りにくくなることからエネルギー代謝が起こりにくくなります。ミトコンドリアの中では脂肪酸はピルビン酸、アセチルCoAに変化して、ミトコンドリア内のTCA回路でクエン酸となって、そのあと次々と別の酸に変化して、一周してクエン酸に戻ります。この変化では電子の受け渡しが行われて、ADP(アデノシン二リン酸)にリン酸が1個加わってATP(アデノシン三リン酸)となります。このATPがエネルギー物質です。
ATPからリン酸が1個はずれてADPになるときにエネルギーが蓄積されて、エネルギーが放出されています。このエネルギーを使って、細胞は化学反応を起こして、細胞を働かせる原動力となるわけです。このエネルギー代謝によって発生したエネルギーの50%ほどは体温を上昇させるために使われていて、代謝が進むほど身体が熱くなっていくので、燃焼したようなイメージになっているということです。