胃の胃底線からは脂肪の分解酵素の膵リパーゼが分泌されますが、膵リパーゼが働くためには脂肪の乳化が必要で、そのためには十二指腸から分泌される胆汁が必要になります。つまり、脂肪は十二指腸で分解されることになります。そのこともあって、脂肪が分解されるまでには約6時間もかかっています。糖質の多い食事では短時間で空腹を感じやすく、脂肪が含まれた食事をすると空腹を感じにくく、腹持ちがよい状態になるのは、こういった仕組みがあるからです。
小腸の空腸から分泌される分解酵素のリパーゼは脂肪(中性脂肪)を脂肪酸とグリセロール(グリセリド)に分解します。また、空腸でもリパーゼが分泌されますが、このほかに空腸ではオリゴペプチドをアミノ酸に分解するエレプシンなどが分泌されます。つまり、脂肪の分解は十二指腸と空腸で行われているわけです。
胃と腸から分泌される消化液の種類は国民によって異なることはないものの、分泌量は違っています。日本人は歴史的に米食中心で糖質を多く摂ってきたことからアミラーゼの分泌量が多くなっています。これによってエネルギー源となるブドウ糖を多く取り込むことができる体質となりました。これは低栄養の時代には有効な仕組みですが、栄養過多の時代には血糖値を急上昇させる原因になっています。血糖値が上昇すると肝臓で合成される脂肪酸が増えるとともに、コレステロールの合成も進みやすくなります。脂肪の摂取量が少なければ優位に働くものの、現在のように脂肪の摂取量が多いと体内での脂肪の作りすぎにつながる仕組みといえます。
脂肪の分解は十二指腸から分泌される胆汁による乳化作用によって行われるわけですが、胆汁はコレステロールを原材料に肝臓で生成されています。日本人の肝臓が小さく、加齢によって縮小しやすいのは、歴史的にコレステロールが多く含まれる肉食などの食品を多く取ってこなかったためだと言われています。もともとコレステロールの蓄積量が少ないために胆汁も作られにくく、さらに日本人は歴史的に長生きしてこなかったことから、高齢になると胆汁の分泌量が大きく低下しやすくなっています。
また、十二指腸から分泌された胆汁の主成分である胆汁酸は、90~95%が小腸下部の回腸で再吸収されて、静脈の門脈を通って再び肝臓に戻ってきます。この腸肝循環が正常に働いていると再び胆汁となって分泌される量が増えることになります。